コラム

2026/02/28 コラム

運送約款の作成・変更と届出義務|標準貨物自動車運送約款との違いは?

はじめに

運送業を営む上で、荷主との契約条件を定める最も基本的なルールブックが「運送約款」です。

しかし、多くの事業者様から「開業時に標準約款を採用したままで、中身をよく読んでいない」「独自にルールを変えたいが、手続きが面倒そうで手をつけていない」といった声を耳にします。

実は、2024年(令和6年)に「標準貨物自動車運送約款」が改正され、付帯作業の明確化等のルールが大きく変更されています。古い知識のまま業務を行っていると、適正な料金を請求できなかったり、キャンセル料を回収し損ねたりする可能性があります。

また、民法改正により「定型約款」としての要件が厳格化されており、約款を適切に掲示・周知していないと、いざという時に約款の効力を主張できないリスクもあります。

本記事では、運送約款の基礎知識から、標準約款と独自約款の違い、作成・変更時の手続き、そして最新の改正ポイントについて、運送業の法務に詳しい弁護士がわかりやすく解説します。

運送約款に関するQ&A

まずは、運送約款についてよくある疑問をQ&A形式で解説します。

Q1. 「標準貨物自動車運送約款」をそのまま使う場合、何か手続きは必要ですか?

行政への提出は不要ですが、営業所等での「掲示」は必須です。

国土交通大臣が定めた「標準貨物自動車運送約款」と同一の内容を自社の約款とする場合、個別の認可を受ける必要はなく、認可を受けたものとみなされます(みなし認可)。そのため、運輸支局への申請や届出は原則として不要です。ただし、約款を営業所の見やすい場所に掲示し、インターネット上でも閲覧できるようにしておく義務があります。

Q2. キャンセル料や運賃のルールを自社独自のものに変更できますか?

変更可能ですが、その場合は「認可申請」が必要です。

標準約款とは異なる独自の約款(独自約款)を使用したい場合は、管轄の運輸支局長を経由して、地方運輸局長の「認可」を受けなければなりません。審査には通常1ヶ月程度かかり、荷主の正当な利益を害するおそれがないか等が厳格に審査されます。

Q3. 約款の内容を荷主に説明しなくても、契約は成立しますか?

掲示や周知を怠ると、約款が契約内容として認められないリスクがあります。

民法上の「定型約款」として認められるためには、契約の相手方(荷主)が「約款を契約内容とすること」に同意しているか、あるいはあらかじめ「約款を契約内容とする旨」を表示しておく必要があります。さらに、相手方から請求があれば約款を開示する義務もあります。Webサイト等で誰でも見られる状態にしておくことが、法的リスクを下げる方策です。

運送約款とは?標準約款と独自約款

1. 運送約款の役割

運送約款とは、運送事業者が不特定多数の荷主と迅速かつ公正に契約を結ぶためにあらかじめ定めた、運送契約の「ひな形(定型約款)」のことです。

いちいち個別の契約書を取り交わさなくても、「この約款に基づいて運びます」と合意すれば、約款に書かれた詳細なルール(責任の範囲、運賃の計算方法、免責事項など)が契約内容となります。

2. 「標準貨物自動車運送約款」とは

国土交通省が定めたモデル約款であり、運送業界の標準的な取引ルールとして広く普及しています。

ほとんどの運送事業者は、この標準約款をそのまま採用しています。

【メリット】

  • 作成の手間がない: 国交省の告示内容をそのまま採用すればよいため、自社で作る必要がありません。
  • 認可手続きが不要: 「みなし認可」により、行政への申請手続きが省略できます。
  • 信頼性が高い: 公的なルールであるため、荷主からの理解を得やすく、公平性が担保されています。

【デメリット】

  • 自社の実情に合わない場合がある: 汎用的な内容であるため、特殊な貨物や独自のサービス内容に対応しきれないことがあります。
  • 責任制限が決まっている: 損害賠償の上限額などが決まっており、これを自社に有利に変更することはできません。

2. 独自約款を作成する場合

標準約款ではカバーできない特殊な輸送(例:美術品輸送、現金輸送、特殊な管理が必要な医薬品など)を行う場合や、キャンセル料の規定をより厳しくしたい場合などは、独自の約款を作成し、認可を受ける必要があります。

【認可の基準】

  • 公衆の正当な利益を害するおそれがないこと。
  • 少なくとも標準約款に準じた責任を負うものであること(荷主に一方的に不利な内容は認められません)。
  • 運賃や料金の収受に関して明確に定められていること。

2024年改正!標準貨物自動車運送約款の変更ポイント

2024年(令和6年)6月に施行された標準貨物自動車運送約款の改正は、実務に大きな影響を与える内容が含まれています。標準約款を採用している事業者様は、必ず内容を確認してください。

1. 積込み・取卸し等の「料金」の明確化

これまで曖昧になりがちだった「運送」と「付帯作業(積込み、取卸し、待機など)」の区分が明確化されました。

改正前の約款では、積込みや取卸しも「運送業務」の一部として読める箇所がありましたが、改正後はこれらを別章(第3章)として分離しました。これにより、「運送の対価(運賃)」とは別に、「作業の対価(積込料、取卸料、待機時間料)」を請求する根拠がより明確になりました。

2. キャンセル料(中止手数料)の見直し

トラックを手配した後にキャンセルされた場合に請求できる「中止手数料」の金額基準が変更されました。

改正前

車両の大きさに関わらず一律の金額設定などが多く、実勢に合わない場合があった。

改正後

  • 集貨日の前々日: 運賃等の 20% 以内
  • 集貨日の前日: 運賃等の 30% 以内
  • 集貨日の当日: 運賃等の 50% 以内

これにより、運賃額に比例したキャンセル料を請求できるようになり、直前キャンセルのリスクヘッジがしやすくなりました。

3. 利用運送における通知義務

他の運送事業者に運送を委託する(利用運送を行う)場合、利用運送事業者は、荷送人に対して「実運送事業者(実際に運ぶ会社)の商号・名称等」を通知することが義務付けられました。

これは、多重下請け構造を是正し、誰が運んでいるかを明確にするための措置です。

運送約款の作成・変更手続きと掲示義務

手続きの流れ

  1. 標準約款を採用する場合
    • 特に行政への申請は不要です。
    • ただし、事業計画の中で「標準貨物自動車運送約款を使用する」としているか確認してください(通常は開業時に選択しています)。
  2. 独自約款を作成・変更する場合
    • 「運送約款設定(変更)認可申請書」を作成し、管轄の運輸支局へ提出します。
    • 審査期間は通常12ヶ月です。
    • 認可後、営業所への掲示を行います。

掲示義務とWeb公表の重要性

貨物自動車運送事業法第11条により、運送事業者は運送約款を「主たる事務所その他の営業所において公衆に見やすいように掲示」しなければなりません。

さらに、近年の改正により、一定規模以上の事業者(常時使用する従業員数が20人を超える場合など)については、自社のウェブサイト等での公表も義務付けられる流れにあります。

これは単なる行政上の義務にとどまりません。民法上、Webサイト等で約款を公表し、取引相手が容易に確認できる状態にしておくことは、その約款を契約内容として有効にするための重要な要件(定型約款の表示)となります。「約款を見せていないから、その免責条項は無効だ」と主張されないよう、ホームページ等にPDFを掲載しましょう。

実務的な対応:独自約款までは必要ない場合

「標準約款の一部だけを変えたいが、認可申請まではしたくない」というケースも多いでしょう。その場合は、以下の方法が実務的です。

「個別契約」や「特約」での上書き

運送約款はあくまで「基本的な契約条件」です。特定の荷主との間で、約款と異なる内容の「運送契約書」や「覚書」を別途取り交わした場合、原則としてその個別契約の内容が約款より優先されます。

例えば、標準約款ではキャンセル料が当日50%となっていますが、特定の荷主との契約書で「当日キャンセルは運賃の100%とする」と合意していれば、その契約が有効となります(ただし、公序良俗に反するような暴利な内容は無効となる可能性があります)。

独自約款の認可申請をする前に、まずは荷主との個別契約書で調整できないか検討することをお勧めします。

弁護士に相談するメリット

運送約款や契約条件の整備について、弁護士に相談することには以下のメリットがあります。

1. 個別契約書(特約)の作成とリーガルチェック

標準約款ではカバーしきれない条件を、荷主との個別契約書にどう落とし込むか助言します。特に、待機料金の請求条件や、燃料サーチャージの取り決めなど、収益に直結する条項の整備をサポートします。

2. 独自約款の作成と認可申請サポート

どうしても独自約款が必要な場合、国交省の基準を満たしつつ、貴社のリスクを最小限にする約款案を作成し、認可申請の手続きを支援します。

3. 定型約款としての有効性確保

Webサイトでの公表方法や、見積書・発注書への約款参照文言の入れ方など、民法改正に対応した正しい約款運用の実務をアドバイスします。

まとめ

運送約款は、運送事業の「憲法」とも言える重要なルールです。

2024年の標準約款改正は、運送事業者が適正な対価(積込料、待機料、キャンセル料)を受け取るための強力な武器となります。まずは、自社が現在使用している約款が最新の標準約款に対応しているかを確認し、必要であればWebサイトの記載を更新してください。

また、特定の荷主との間でトラブルが絶えない場合は、約款だけに頼らず、個別の運送契約書を見直すことが解決の近道です。

約款の解釈や、荷主への契約条件の提示についてお悩みの際は、運送業の法務に強い弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社の利益を守るための最適な契約実務をサポートいたします。


 

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