2026/02/27 コラム
庸車(傭車)契約におけるトラブル事例と傭車先の管理責任
はじめに
運送業界において、自社の車両やドライバーだけで全ての配送需要をカバーすることは容易ではありません。繁忙期の対応や、突発的な大量輸送、あるいは専門外のエリアへの配送などにおいて、協力会社や個人事業主の車両を利用する「庸車(傭車)」は、事業運営に欠かせない仕組みとなっています。
しかし、この庸車契約は、自社の直接雇用ではないドライバーが業務を行うため、指揮命令系統が曖昧になりやすく、事故やトラブルが発生した際の責任の所在が複雑化しやすいというリスクをはらんでいます。
「事故を起こしたのは下請けだから、うちは関係ない」という理屈は、法的な観点からは通用しないケースが増えています。元請け事業者として、庸車先を適切に管理し、万が一の事態に備えた契約関係を構築しておくことは、企業の存続に関わる重要課題です。
本記事では、庸車(傭車)契約にまつわる法的なリスクと、具体的なトラブル事例、そして元請けとして負うべき管理責任について、運送業の法務に詳しい弁護士が解説します。
庸車(傭車)に関するQ&A
解説に入る前に、庸車取引に関してよくある疑問をQ&A形式で整理します。
Q1. 「庸車(傭車)」と「下請け」は何が違うのですか?
法律上の厳密な違いはありませんが、業界慣習として使い分けられています。
一般的に、運送会社が他の運送会社や個人事業主に業務を委託することを「下請け」と呼びますが、その際に利用される他社の車両そのものや、その車両を手配すること自体を「庸車(ようしゃ)」と呼びます。
法的には、どちらも「貨物利用運送事業法」に基づく「利用運送」に該当するため、庸車を依頼する側(元請け)は利用運送事業の登録または許可を受けている必要があります。
Q2. 庸車先のドライバーが事故を起こした場合、元請けも責任を負いますか?
はい、責任を負う可能性があります。
直接の雇用関係がなくても、元請けが庸車先のドライバーに対して実質的な指揮監督を行っていたり、その運行によって利益を得ていたりする場合、「使用者責任(民法)」や「運行供用者責任(自動車損害賠償保障法)」を問われる可能性があります。特に人身事故などの重大事故では、被害者保護の観点から、元請けの責任が広く認められる傾向にあります。
Q3. 個人事業主(一人親方)を庸車として使う場合のリスクは?
「名義貸し」や「偽装請負」とみなされるリスクがあります。
形式上は業務委託契約であっても、実態として元請けの指揮命令下で働いており、勤務時間の管理なども行われている場合は、労働者とみなされる可能性があります。また、違法な「名義貸し(ナンバー貸し)」と判断されれば、行政処分の対象となり、最悪の場合は事業許可の取消しに至ることもあります。
庸車(傭車)契約における法的リスクとトラブル事例
庸車を利用することは業務効率化に役立ちますが、そこには特有のトラブルが潜んでいます。ここでは代表的な事例を紹介します。
1. 事故発生時の責任転嫁と求償トラブル
最も多いのが、交通事故や貨物事故が発生した際のトラブルです。
庸車先が事故を起こして荷主に損害を与えた場合、運送契約上、まずは元請けが荷主に対して損害賠償責任を負います(契約責任)。その後、元請けは庸車先に対して、支払った賠償金を請求(求償)することになります。
しかし、庸車先が十分な資力を持っていなかったり、保険に加入していなかったりすると、元請けは求償できず、損害を丸被りすることになります。「当然保険に入っていると思っていた」という確認不足が致命傷となります。
2. 「名義貸し」等の法令違反リスク
庸車として利用していた個人ドライバーが、実は運送業の許可を持っていなかったり(白ナンバー営業)、元請けの名義を借りて営業していたりするケースです。
これが発覚した場合、元請けも「名義貸し」に関与したとして、厳しい行政処分(車両停止や事業停止)を受けることになります。また、実態が雇用に近い場合、残業代の請求や労災認定を巡るトラブルに発展することもあります。
3. ドライバーの質とコンプライアンス違反
「挨拶ができない」「服装が乱れている」「指定時間に遅れる」といった品質上のトラブルや、過積載・速度超過などのコンプライアンス違反も頻発します。
元請けとしては「協力会社の教育不足」と言いたいところですが、荷主から見れば「元請けのドライバー」として認識されるため、元請けのブランド毀損(きそん)に直結します。特に、庸車先のドライバーが過労運転で事故を起こした場合、無理な運行計画を指示した元請けも責任を問われる可能性があります。
4. 契約内容の不明確さによる運賃トラブル
「繁忙期だからいつもより高く払う」といった口約束で庸車を依頼し、後で「そんな金額は約束していない」と揉めるケースです。また、待機時間料や高速代の負担区分が曖昧なまま業務を行い、請求段階でトラブルになることも少なくありません。下請法(下請代金支払遅延等防止法)の適用対象となる場合、書面の交付義務違反なども問題となります。
傭車先の管理責任:元請けはどこまで責任を負うか
庸車契約において最も注意すべきは、元請けが負う法的責任の範囲です。裁判例では、元請けの責任を広く認める傾向にあります。
1. 運行供用者責任(自賠法3条)
人身事故において問題となるのが「運行供用者責任」です。これは、事故を起こした車両の運転者だけでなく、その車両の運行を支配し、利益を得ている者(運行供用者)も賠償責任を負うという規定です。
元請けが庸車先に対して、具体的な配送ルートや時間を指示し、その配送によって運送利益を得ている場合、元請けも「運行供用者」として認められ、賠償責任を負うことになります。
2. 使用者責任(民法715条)
民法上の「使用者責任」は、直接の雇用関係がなくても成立します。
判例では、以下の要素を総合的に考慮して、実質的な指揮監督関係(使用関係)があったかどうかを判断します。
- 元請けの屋号やロゴが入ったトラックを使用させていたか
- 元請けの制服を着用させていたか
- 具体的な業務指示(配送順序、時間指定など)を行っていたか
- 庸車先が元請けの業務に専属的に従事していたか
これらの要素が強い場合、庸車先のドライバーは元請けの「被用者」とみなされ、元請けは使用者責任を負います。つまり、「自社の従業員と同様に管理・監督する責任」があるということです。
トラブルを防ぐ庸車契約書のポイント
庸車利用に伴うリスクを最小限に抑えるためには、適切な「運送委託契約書(基本契約書)」の締結が重要です。
1. 責任の所在と求償権の明確化
事故が発生した場合の責任分担を明確にします。
「乙(庸車先)の責めに帰すべき事由により、甲(元請け)または第三者に損害を与えた場合、乙はその損害を賠償する」といった規定に加え、元請けが荷主に賠償した場合の求償権についても定めておきます。
2. 保険加入の義務付け
庸車先に対し、対人・対物無制限の任意保険や、十分な補償額の貨物保険への加入を義務付け、保険証券の写しを提出させる条項を入れます。口頭確認だけでなく、毎年の更新時に証券を確認するフローも重要です。
3. 再委託(孫請け)の制限
庸車先がさらに別の業者(孫請け)に丸投げすることを無制限に認めると、元請けが全く把握していない質の低い業者が運送することになり、リスクが高まります。
「再委託を行う場合は、事前に甲の書面による承諾を得ること」とし、再委託先も同等の管理体制であることを確認できるようにすべきです。
4. コンプライアンス遵守と契約解除
過積載、過労運転、飲酒運転などの法令違反を禁止し、違反があった場合の即時契約解除条項を設けます。また、反社会的勢力の排除条項も必要です。
5. 業務の独立性の確認(偽装請負対策)
契約書上で、庸車先が独立した事業者として自らの裁量と責任で業務を行うことを確認する条項を入れます。ただし、実態が伴っていなければ意味がないため、過度な指揮命令を行わない運用上の注意も必要です。
弁護士に相談するメリット
庸車契約に関するリスク管理は、弁護士のサポートを受けることでより強固になります。
- 実態に即した契約書の作成
市販の雛形ではなく、貴社の業務形態(専属庸車かスポットか、特殊車両か等)に合わせた契約書を作成します。特に、下請法に対応した支払条件の設定や、リスクの高い条項の修正を行います。 - 事故発生時の対応と示談交渉
庸車先が事故を起こした場合、責任の所在を巡って関係者が対立することがあります。弁護士は、元請けとしてどこまで責任を負うべきかを法的に判断し、不当な請求を排除しつつ、迅速な解決に向けた交渉を行います。 - コンプライアンス体制の構築
「名義貸し」や「偽装請負」のリスクがないか、現在の庸車利用の実態を診断し、適法な運用体制への改善をアドバイスします。2024年問題を見据えた労務管理の観点からもサポートが可能です。
まとめ
庸車(傭車)の活用は、運送事業者にとって事業拡大と柔軟な対応を可能にする強力な武器ですが、同時に「見えないリスク」を抱え込むことでもあります。
「協力会社だから」と安易に信頼するだけでなく、「元請けとして、最終的な責任は自社に降りかかってくる」という意識を持つことが重要です。
適切な契約書の締結、保険加入の徹底確認、そして日常的な安全管理の働きかけ。これらを怠ると、たった一度の事故で会社の信用を失うことになりかねません。
庸車契約の見直しや、協力会社の管理体制に不安がある場合は、運送業の法務に強い弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社のビジネスを守り、協力会社と共に成長できる体制づくりをお手伝いします。
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