コラム

2026/02/20 コラム

【雛形・条項例あり】運送委託契約書の作り方|荷主との契約で確認すべき9つのポイント

はじめに

運送業を営む皆様にとって、荷主との間で取り交わす「運送委託契約書」は、事業の安定とリスク管理の要となる重要な文書です。

近年、運送業界を取り巻く環境は激変しています。20244月から適用されたトラックドライバーの時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)や、燃料費の高騰、さらには「標準的な運賃」の改定など、運送事業者が対応すべき課題は山積しています。このような状況下において、従来の「口約束」や「長年の慣習」に依存した取引関係を続けていくことは、法務リスクを高めるだけでなく、適正な運賃収受を阻害する要因にもなりかねません。

運送契約を書面化し、業務内容や責任範囲、運賃設定などを明確にしておくことは、後のトラブルを防ぐ「守り」の側面だけでなく、荷主に対して適正な条件を提示し、持続可能な経営を実現するための「攻め」のツールとしても機能します。

本記事では、運送委託契約書の作成を検討されている事業者様に向けて、契約書に盛り込むべき具体的な条項や、荷主との契約締結時に特に注意すべき9つのポイントを解説します。また、実務ですぐに使える条項例や、よくある疑問である収入印紙の取り扱いについても触れていきます。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、運送業の法務に精通した弁護士が、各事業者の実情に合わせた契約書作成やリーガルチェックをサポートしています。本記事が、貴社の契約実務の一助となれば幸いです。

運送契約に関するQ&A

契約書の解説に入る前に、運送事業者様からよく寄せられる疑問について、Q&A形式で解説します。

Q1. 長年取引がある荷主とは契約書を交わしていません。何か問題がありますか?

はい、大きなリスクがあります。

契約書がない場合、運賃の計算方法、付帯業務の対価、事故が起きた際の損害賠償責任の範囲などが曖昧なまま取引が行われることになります。トラブルが発生した際、「言った言わない」の水掛け論になりやすく、解決までに多大な時間とコストがかかる可能性があります。また、商法改正により運送人の責任規定なども変更されているため、現在の法律に適合した契約条件を書面で合意しておくことが重要です。書面化は、適正な運賃転嫁や取引条件の改善を交渉するきっかけにもなります。

Q2. インターネット上の無料の雛形(テンプレート)をそのまま使っても大丈夫ですか?

そのまま使用することはお勧めできません。

ネット上の雛形は、一般的な内容にとどまっていることが多く、貴社の具体的な業務内容(運ぶ貨物の種類、特殊な積み込み作業の有無、保管業務の有無など)やリスクに対応できていない場合があります。また、最新の法改正(商法、民法、働き方改革関連法など)が反映されていない古い雛形である可能性もあります。雛形はあくまで参考とし、自社の実情に合わせて条項をカスタマイズすることが重要です。

Q3. 運送契約書には収入印紙を貼る必要がありますか?

原則として必要ですが、契約の内容によって金額や要否が異なります。

運送に関する契約書は、印紙税法上の「第1号文書(運送に関する契約書)」または「第7号文書(継続的取引の基本契約書)」に該当する可能性があります。記載金額(運賃など)の有無や、契約期間の定め方によって判断が分かれます。印紙を貼り忘れると過怠税が課されるリスクがあるため、正しい知識を持って対応する必要があります(詳細は後述します)。

運送委託契約書の作成にあたって

基本契約と個別契約の使い分け

運送取引は、特定の荷主と反復継続して行われることが一般的です。そのため、契約形態としては「基本契約」と「個別契約」の2段階に分ける方法が効率的です。

  • 運送基本契約書: 取引全体に共通する基本的なルール(支払条件、責任範囲、解除事由など)を定めたもの。一度締結すれば、取引が続く限り有効となります。
  • 個別契約(発注書・請書など): 個々の運送業務ごとに、具体的な内容(日時、積載場所、配送先、貨物内容、運賃額など)を定めたもの。

本記事では、主にこの「運送基本契約書」を作成する際のポイントについて解説します。

標準運送約款との関係

国土交通省が定めている「標準運送約款」を使用している事業者も多いかと思います。約款は、不特定多数の荷主と取引する場合に定型的なルールを定めるものですが、特定の荷主と継続的な取引を行う場合には、約款とは別に(あるいは約款をベースにしつつ)、両者の合意に基づいた契約書を締結することが望ましいといえます。特約として約款と異なる取り決めをすることも可能ですが、商法や消費者契約法などの強行法規に反しないよう注意が必要です。 

荷主との契約で確認すべき9つのポイント【条項例あり】

ここからは、運送委託契約書を作成する際に、特に注意して確認・規定すべき9つのポイントを、条項例を交えて解説します。

1. 業務の範囲と付帯作業の明確化

運送契約において最もトラブルになりやすいのが、「どこまでが運送会社の仕事か」という範囲の問題です。単に「運送する」と記載するだけでは不十分です。積み込み・取り卸し、棚入れ、ラベル貼り、検品などの「付帯作業」が含まれるのかどうかを明確にする必要があります。これらが曖昧だと、対価なしで作業を強いられる原因となります。

【条項例】

第○条(業務の範囲)

  1. 甲(荷主)は、乙(運送事業者)に対し、貨物の運送業務を委託し、乙はこれを受託する。
  2. 前項の運送業務には、契約等の別段の定めがない限り、貨物の積み込み、取り卸し、積み付け、仕分け、検品、保管、代金回収等の付帯作業は含まれないものとする。
  3. 甲の指示により、乙が前項の付帯作業を行った場合は、甲は乙に対し、別途定める料金を支払うものとする。

2. 運賃および料金の決定・変更ルール

運賃の金額だけでなく、燃料サーチャージや待機時間料、高速道路利用料などの実費をどのように請求するかを定めておくことが重要です。また、経済情勢の変化に応じた運賃改定の協議条項も設けておくべきです。

【条項例】

条(運賃および料金)

  1. 本契約に基づく運送業務の対価(以下「運賃」という)は、別途覚書にて定める料金表に基づくものとする。
  2. 燃料価格の高騰、物価の上昇、法令の改正その他の経済情勢の変化により、従来の運賃が不相当となったときは、甲および乙は、誠意をもって運賃の改定について協議するものとする。
  3. 高速道路利用料、フェリー利用料等の実費、および積み込み・取り卸し等の待機時間が分を超えた場合の待機時間料は、運賃とは別に甲が負担するものとする。

3. 貨物の種類と申告義務

危険物、高価品、変質しやすいものなど、特別な注意を要する貨物については、荷主から事前の申告がなければ適切な管理ができません。商法上も荷送人の通知義務がありますが、契約書でも確認的に規定し、通知がなかった場合の免責を定めておきます。

【条項例】

条(特殊貨物の通知)

  1. 甲は、委託する貨物が、壊れやすいもの、変質・腐敗しやすいもの、危険物、貴重品、または高額品(1個または1組の価額が万円を超えるもの)である場合は、あらかじめ乙に対し、その種類および性質を通知しなければならない。
  2. 甲が前項の通知を怠ったことにより生じた貨物の滅失、毀損または遅延について、乙は損害賠償の責任を負わないものとする。

4. 再委託(利用運送)の可否

自社の車両だけで対応できない場合、協力会社(下請け)を利用することがあります。これを無断で行うと契約違反を問われる可能性があるため、再委託を可能とする条項を入れておく必要があります。

【条項例】

条(再委託)

  1. 乙は、その責任において、運送業務の全部または一部を第三者に再委託することができる。
  2. 前項の場合、乙は、当該第三者の選任および監督について、甲に対して責任を負うものとする。

5. 損害賠償の範囲と限度額

貨物事故が起きた際、運送業者が負う賠償責任の上限を設けておくことは、経営を守るために不可欠です。全額賠償となると、運賃収入に見合わない莫大なリスクを負うことになります。

【条項例】

条(損害賠償)

  1. 乙は、貨物の受取から引渡しまでの間に、自己またはその使用人等の過失により貨物を滅失、毀損または遅延させたときは、その損害を賠償する責任を負う。
  2. 前項の損害賠償額は、貨物の引き渡し地における到着時の価額を基準として算定する。ただし、いかなる場合も、損害賠償額の上限は、当該運送にかかる運賃の倍、または金万円のいずれか低い額とする。
  3. 天災地変、不可抗力、または貨物の性質・欠陥、梱包の不備により生じた損害については、乙はその責任を負わない。

6. 支払条件と支払遅延時の対応

運賃の支払いサイト(締め日と支払日)を明確にします。資金繰りの観点からは、可能な限りサイトを短く設定することが望ましいです。また、支払いが遅れた場合の遅延損害金についても定めます。

【条項例】

条(支払条件)

  1. 運送業務の運賃および料金の支払いは、毎月日締め、翌月日限り、甲が乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
  2. 甲が前項の支払いを遅滞したときは、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年%(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金を乙に支払うものとする。

7. 契約期間と更新条項

契約期間を定め、自動更新条項を設けるのが一般的です。自動更新にしておけば、更新の手間が省けますが、契約条件を見直したい場合のために、更新拒絶の予告期間を適切に設定しておく必要があります。

【条項例】

条(契約期間)

  1. 本契約の有効期間は、令和日から1年間とする。
  2. 期間満了のヶ月前までに、甲または乙のいずれからも書面による別段の申し出がないときは、本契約は同一条件にてさらに1年間更新されるものとし、以後も同様とする。

8. 契約の解除・期限の利益喪失

相手方に契約違反があった場合や、信用状態が悪化(差押え、破産申し立て等)した場合に、直ちに契約を解除し、取引を終了できるようにしておく必要があります。これを定めておかないと、相手が倒産寸前でも契約を履行しなければならなくなる恐れがあります。

【条項例】

条(契約解除)

  1. 甲または乙は、相手方に次の各号の一に該当する事由が生じたときは、何らの催告を要せず直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

(1) 本契約の条項に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず是正されないとき

(2) 監督官庁より営業停止または営業免許もしくは営業登録の取消処分を受けたとき

(3) 差押え、仮差押え、仮処分、競売の申立てがあったとき

(4) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始の申立てがあったとき

9. 反社会的勢力の排除

現在、企業取引において反社会的勢力排除条項(暴排条項)の導入も必要です。コンプライアンスの観点から、規定しておきましょう。

【条項例】

条(反社会的勢力の排除)

  1. 甲および乙は、自らまたはその役員が、暴力団、暴力団員、暴力団関係企業、総会屋等、その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」という)に該当しないことを表明し、保証する。
  2. 甲または乙が前項に違反したときは、相手方は何らの催告を要せず本契約を解除することができる。

運送契約書と収入印紙のルール

運送委託契約書を作成する際、忘れてはならないのが収入印紙です。契約書の内容によって、課税文書の種類や金額が異なります。

1号文書か7号文書か

運送に関する契約書は、主に以下の2つのパターンに分類されます。

  1. 1号文書(運送に関する契約書)
    • 具体的な運送業務について、運賃や内容を定めた契約書。
    • 「〇〇の貨物を、運賃〇〇万円で運送する」といった、個別の運送契約や、特定の期間内の運送について具体的な金額が記載されている場合が該当します。
    • 印紙額:契約金額に応じた階級定額(例:1万円以上10万円以下なら200円、10万円超50万円以下なら400円など)。契約金額の記載がない場合は200円。
  2. 7号文書(継続的取引の基本契約書)
    • 特定の相手方と継続的に生じる取引の基本となる契約書。
    • 契約期間が3ヶ月を超え、かつ更新の定めがあるなど継続性があり、具体的な運送ごとの運賃ではなく、取引条件(支払方法、責任など)のみを定めている場合。
    • 多くの「運送基本契約書」はこちらに該当します。
    • 印紙額:一律4,000円。

判断のポイント

契約書に「契約期間は1年間(自動更新あり)」「運賃は別途覚書による」と記載されているような一般的な基本契約書の場合は、7号文書として4,000円の印紙を貼付するケースが多いでしょう。ただし、契約書の中に「契約時における運賃総額は〇〇円とする」等の記載がある場合は、第1号文書と第7号文書の両方の性質を持つことになり、記載金額等によって判断が変わります。

電子契約の活用

なお、近年普及している「電子契約(クラウドサイン等)」を利用して契約を締結する場合、書面の交付が行われないため、印紙税は非課税となります。コスト削減や事務効率化の観点から、電子契約の導入を検討することも一つの有効な手段です。

弁護士に相談するメリット

運送委託契約書の作成やチェックを弁護士に依頼することには、以下のようなメリットがあります。

  1. 自社に有利な条件の確保とリスク回避
    一般的な雛形ではカバーしきれない、貴社特有の業務フローやリスクを反映した契約書を作成できます。例えば、待機時間料の請求要件や、特殊な積み込み作業の責任分担など、現場の実情に即した条項を盛り込むことで、将来のトラブルを未然に防ぎます。
  2. 法改正への的確な対応
    商法改正や働き方改革関連法、「標準的な運賃」の告示など、運送業を取り巻く法規制は頻繁に変わります。弁護士は最新の法令に基づき、コンプライアンス違反にならない契約内容を構築します。特に、荷主との力関係で不利になりがちな取適法(中小受託取引適正化法)や独占禁止法(優越的地位の濫用)の問題についてもアドバイスが可能です。
  3. 荷主との交渉サポート
    契約書の提示は、荷主との交渉の場でもあります。「法律上このように規定する必要があります」「業界標準としてこの条項が推奨されています」といった法的根拠をバックボーンに持つことで、運賃値上げや条件改善の交渉を有利に進めることができます。弁護士が代理人として交渉に関与することも可能です。
  4. 万が一のトラブル時の迅速な対応
    契約書の内容を熟知した弁護士がいれば、未払い運賃の回収や事故の損害賠償請求など、トラブルが発生した際に迅速かつ適切な初動対応が可能となります。

まとめ

運送委託契約書は、単なる形式的な書類ではありません。貴社の利益を守り、ドライバーを守り、そして事業を永続させるための重要な経営基盤です。

特に「2024年問題」に直面している今、曖昧な契約関係を見直し、適正な運賃と取引条件を書面で確立することは急務といえます。

今回解説した9つのポイント(業務範囲、運賃、特殊貨物、再委託、損害賠償、支払条件、期間、解除、反社排除)を参考に、現在使用している契約書を見直すか、新たに契約書を作成することをお勧めします。

しかし、契約書の作成は法的な専門知識を要する作業であり、自社だけで完璧なものを作るのは困難な場合もあります。不安がある場合や、より強固な契約書を作成したい場合は、運送業の法務に強い弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社の実情に合わせた最適な契約書作成をサポートいたします。


 

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