コラム

2026/02/17 コラム

弁護士費用特約の上手な使い方|運送会社の保険とドライバー個人の保険

はじめに

交通事故の被害に遭った際、加害者側(相手方保険会社)との示談交渉を弁護士に依頼することで、賠償金(慰謝料や休業損害)が裁判所基準(弁護士基準)で算定され、増額される可能性が高まります。また、多忙な運行管理者や経営者に代わって弁護士が窓口となることで、業務負担を大幅に軽減できます。

このようにメリットの多い弁護士依頼ですが、ネックとなるのが「弁護士費用」です。通常、着手金や成功報酬が発生しますが、これらを保険会社が負担してくれるのが「弁護士費用特約」です。

運送会社の場合、保有台数が多いため、コスト削減の観点から特約を外しているケースも見受けられます。しかし、近年の複雑な交通事情や「もらい事故」への対応を考えると、その重要性は増しています。また、会社が特約に入っていなくても、ドライバー自身の保険を活用できる場合があることは、あまり知られていません。

本記事では、運送業における弁護士費用特約の賢い使い方と、保険契約時のチェックポイントについて解説します。

運送業の弁護士費用特約に関するQ&A

解説に入る前に、運送事業者様からよくいただく質問をQ&A形式でご紹介します。

Q1. 会社のトラックが「もらい事故(過失0)」に遭いました。保険会社が示談交渉してくれないと言われましたが、なぜですか?

法律上、保険会社は「過失ゼロ」の事故では示談代行ができないからです。

弁護士法(非弁行為の禁止)により、保険会社が契約者に代わって交渉できるのは、契約者(運送会社側)に賠償責任(過失)があり、保険会社が保険金を支払う利害関係がある場合に限られます。こちらが無過失(追突被害など)の場合、保険会社は交渉の表舞台に出られません。このときこそ、弁護士費用特約を使って弁護士に交渉を依頼する出番となります。

Q2. 会社で加入している保険に弁護士費用特約が付いていません。ドライバーが個人で入っているマイカーの保険の特約は使えますか?

使える可能性があります。

多くの個人向け自動車保険(任意保険)の弁護士費用特約は、被保険者(ドライバー)が「契約している車(マイカー)」以外の車を運転中の事故や、乗車中の事故も補償範囲としています。業務中のトラック運転時であっても、ドライバー本人やその家族の保険の特約が利用できるケースは珍しくありません。ただし、約款によって「業務使用」が除外されていないか確認が必要です。

Q3. 弁護士費用特約を使うと、翌年の保険料(等級)は上がりますか?

原則として、弁護士費用特約のみの使用であれば等級には影響しません(ノーカウント事故)。

対人・対物賠償などを使うと等級が下がり保険料が上がりますが、弁護士費用特約は一般的に「ノーカウント事故」として扱われます。したがって、保険料の増額を心配せずに利用することができます。ただし、会社契約(フリート契約等)と個人契約で扱いが異なる場合もあるため、念のため保険代理店への確認をお勧めします。

解説:運送会社における弁護士費用特約の仕組みと活用

ここからは、運送会社の視点で、弁護士費用特約の具体的な仕組みや、会社契約・個人契約それぞれの活用ポイントについて解説します。

1. 弁護士費用特約とは?

弁護士費用特約とは、交通事故の被害に遭った際、相手方への損害賠償請求を行うために弁護士に依頼する費用や、法律相談費用を保険会社が負担してくれる特約です。

一般的な補償限度額

  • 法律相談費用: 1事案につき10万円まで
  • 弁護士費用(着手金・報酬金等): 1事案につき300万円まで

多くの交通事故案件では、弁護士費用が300万円を超えることは稀であるため、実質的に「自己負担ゼロ」で弁護士に依頼できる強力な特約です。

2. 「会社契約」の保険における特約の考え方

運送会社が自社のトラックに対して契約する自動車保険(共済含む)についてのポイントです。

フリート契約での特約付帯

保有台数が10台以上の「フリート契約」の場合、保険料は契約者全体の損害率によって決まります。コスト削減のために車両保険や各種特約を削ぎ落とす事業者様も多いですが、弁護士費用特約は検討の余地があります。

特に、以下のリスクが高い場合は付帯を推奨します。

  • もらい事故リスク: 信号待ちでの追突被害が多い(保険会社が動けないケース)。
  • 人身事故リスク: ドライバーが怪我をして、休業損害などの交渉が必要になるケース。

コスト対効果の判断

法人契約の弁護士費用特約は、1台あたり月額数百円程度が相場ですが、台数が多いと年間コストは馬鹿になりません。

しかし、ひとたび大きな事故が発生し、相手方が無保険車であったり、不当に低い賠償額を提示されたりした場合、弁護士を自費で雇えば着手金だけで数十万円かかります。

「数年に一度のトラブルのために全車にかけるのは重い」と考える場合は、次に解説する「ドライバー個人の保険」の活用を視野に入れます。

3. 「ドライバー個人の保険」の活用術

これが意外と知られていない、運送業ならではのテクニックです。

ドライバーが通勤やプライベート用に所有している「マイカー(自家用車)」の自動車保険に付いている弁護士費用特約を利用する方法です。

なぜ業務中のトラック事故で使えるのか?

多くの個人向け自動車保険(「個人賠償責任特約」とは異なります)の弁護士費用特約は、被保険者が「自動車に搭乗中」の事故を広くカバーしています。

この「自動車」には、契約車両(マイカー)だけでなく、「他人の車(会社のトラックを含む)」も含まれるのが一般的です。

確認すべき条件(被保険者の範囲)

ドライバー本人が契約者でなくても、以下の人の保険が使える可能性があります。

  • ドライバーの配偶者
  • ドライバーまたは配偶者の同居の親族
  • ドライバーまたは配偶者の別居の未婚の子

例えば、独身の若手ドライバーが実家暮らしの場合、父親の車の保険に弁護士特約が付いていれば、それを使える可能性があります。

業務使用の免責事項に注意

ただし、一部の保険会社や古い約款では、「業務として他人の車を使用している間」を免責(補償対象外)としている場合があります。

最近の主要なダイレクト型保険や大手損保の個人向け商品は、業務中であっても使えるケースが増えていますが、必ず事故発生時にドライバーを通じて(あるいは会社がサポートして)約款を確認する必要があります。

4. 弁護士費用特約を使うメリット

特約を利用して弁護士を入れることには、単に「費用が浮く」以上の経営的メリットがあります。

①「弁護士基準」による賠償額の適正化

保険会社(相手方)は、自社の支払基準(任意保険基準)で賠償額を提示してきますが、これは裁判で認められる基準(弁護士基準)より低額であることがほとんどです。

特に、ドライバーが負傷し後遺障害が残った場合や、長期の休業を余儀なくされた場合、この差額は数百万円になることもあります。弁護士が入ることで、正当な「弁護士基準」での交渉が可能となり、ドライバーへの十分な補償を確保できます。これは会社の福利厚生的な意味合いでも重要です。

② 担当者の業務負担軽減

事故対応は、運行管理者や総務担当者にとって大きなストレスと時間の浪費になります。相手方との電話、書類のやり取り、感情的な対立の調整。弁護士に依頼すれば、これらの窓口業務をすべて一任できます。担当者は本来の運行管理業務や営業活動に専念できます。

③ 複雑な事案の解決

過失割合でもめている、相手方が反社会的勢力やクレーマーである、相手が無保険であるといった複雑なケースでも、法律の専門家である弁護士が介入することで、毅然とした対応が可能になります。

5. 運送会社としての実務対応フロー

実際に事故が起きた際、どのように特約の有無を確認し、活用すべきでしょうか。

  1. 自社保険の確認: まず、事故車両にかけている自社の保険証券を確認し、弁護士費用特約が付いているかチェックします。
  2. ドライバーへのヒアリング: 自社保険に特約がない場合、ドライバーに対して「あなたのマイカーや、ご家族の車の保険に弁護士費用特約が付いていないか」を確認するよう指示します。この際、「使うとしても保険料は上がらない(等級に影響しない)」ことを説明し、安心させることが重要です。
  3. 保険会社への連絡: 特約がある場合、その保険会社に連絡し、「業務中の事故だが使えるか」を確認します。
  4. 弁護士への相談: 特約の利用承認が下りたら、運送業に詳しい弁護士を選定し、相談・依頼します(特約があっても、依頼する弁護士は契約者が自由に選べます)。

弁護士に相談するメリット

「弁護士費用特約があるから、どの弁護士に頼んでも同じ」ではありません。運送業の事故対応は特殊性が強いため、業界に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談いただくメリットがあります。

1. 運送業特有の損害(休車損など)への理解

一般的な交通事故弁護士は、個人の人身事故には詳しくても、営業用トラックの「休車損(車両が使えないことによる営業利益の損失)」の算定には不慣れな場合があります。当事務所は運送業の顧問先を多数持ち、休車損の立証や請求に豊富な実績があります。

2. 特約の約款確認と適用判断

「ドライバーの個人の保険が使えるかどうかわからない」といった場合、当事務所が約款を確認し、保険会社との折衝をサポートします。特約の範囲を正しく解釈し、使える権利を最大限に活用します。

3. 特約がない場合の費用対効果の提示

万が一、どの保険にも特約が付いていなかったとしても、ご安心ください。事故の規模や過失割合の見込みに基づき、「自費で弁護士を入れても増額分でペイできるか(費用倒れにならないか)」を事前にシミュレーションします。

まとめ

弁護士費用特約は、運送会社にとって「転ばぬ先の杖」であり、コストをかけずに質の高い法的サポートを受けるための鍵となります。

ポイントを整理します。

  1. もらい事故対策に有用: 保険会社が示談代行できない「過失ゼロ」事故の解決には、弁護士費用特約が有用です。
  2. ドライバー個人の保険も確認: 会社の保険に特約がなくても、ドライバーのマイカー保険や家族の保険が使える可能性があります(等級への影響は原則なし)。
  3. 賠償額と業務効率の向上: 特約で弁護士を活用することで、適正な賠償金の獲得と、社内担当者の負担軽減を両立できます。

「うちは特約に入っていないから」と諦める前に、まずはドライバーの保険状況も含めて確認してみてください。そして、事故が発生した際は、特約の利用可否を含め、早い段階で弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。特約を最大限に活用し、会社とドライバーを守るための最適な解決策をご提案いたします。


 

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