2025/01/12 コラム
運送業における雇用形態の多様化と注意点〜偽装請負の留意点
はじめに
近年、運送業界ではドライバー不足や業務の多様化が進むなか、雇用形態の多様化が一段と加速しています。正社員はもちろん、契約社員や派遣社員、業務委託ドライバーなど、会社のニーズや働き手の希望に応じてさまざまな働き方が選択されるようになりました。しかし、雇用形態が増えるほど、労務管理や法的リスクの把握が難しくなるのも事実です。
とりわけ、派遣ドライバーを受け入れる際の派遣法遵守や、業務委託契約に潜む偽装請負リスクなどは、運送事業者として十分に理解し回避しなければ、後々重大なトラブルにつながる可能性があります。本記事では、雇用形態の多様化にまつわる注意点や、具体的なリスク管理策を解説しますので、ぜひご参考にしてください。
Q&A
Q1.契約社員や派遣社員を積極的に活用するメリットは?
人手不足が深刻化する運送業において、即戦力として人材を確保しやすい点が大きなメリットです。また、繁忙期や閑散期の差が激しい業界特性上、柔軟に人員を調整できる点も魅力でしょう。ただし、派遣法や雇用契約に関するルールを守らないと、労働局からの指導や罰則を受けるリスクがあるため、注意が必要です。
Q2.業務委託ドライバーと雇用契約のドライバーは、どのような点が異なりますか?
最大の違いは、労働者性の有無です。業務委託ドライバーは、原則として発注者(会社)の指揮命令下にない独立事業者と位置づけられます。具体的には、稼働時間の自由度や自分で仕事を断れるかなどの判断基準があります。しかし、実態として会社の制服を着用し、就業時間や業務内容に会社の厳格な指示がある場合は、偽装請負と見なされる可能性が高いです。
Q3.偽装請負が疑われると、どのようなペナルティがありますか?
偽装請負と認定された場合、事実上「労働契約」とみなされ、会社に対して社会保険や労働保険の未加入分を遡及して請求されたり、労働基準監督署から是正勧告を受けたりすることがあります。また、悪質なケースでは刑事罰の対象となる可能性も否定できません。運送事業者としては、業務委託契約が合法かつ実態に合致しているかを常に確認する必要があります。
Q4.派遣ドライバーを受け入れる場合の注意点は?
労働者派遣法では、派遣受け入れ可能期間の制限や、派遣元・派遣先の責任分担などが定められています。たとえば、派遣先管理台帳の作成や、派遣先責任者の選任などの義務が課されます。さらに、派遣契約で定めた内容以上の業務を行わせると偽装請負とみなされる場合があるので、契約書の作成時には弁護士や社労士と相談しながら慎重に対応しましょう。
解説
雇用形態の種類と特徴
- 正社員
- 会社との直接雇用契約を結び、無期雇用であることが一般的。
- 労働基準法や社会保険の適用をフルに受ける。
- 契約社員
- 有期雇用契約を結ぶ形態が多い。
- 業務内容や契約期間を限定した上で、正社員と同様に雇用契約のルールが適用される。
- 派遣社員
- 派遣元と派遣社員の間で労働契約を締結し、派遣先企業は派遣元と派遣契約を結ぶ。
- 指揮命令関係は派遣先企業が担うが、雇用関係は派遣元と派遣社員の間に存在する。
- 業務委託契約
- 請負契約や委任契約として位置づけられる。
- 委託先は独立した事業者として業務を遂行し、労働法の労働時間規制や割増賃金の支払い義務は直接適用されない。
運送業で多様な雇用形態を使う背景
- 人手不足への対応
少子高齢化や若年層の運送業離れを背景に、即戦力の確保が難しい局面が多々あります。契約社員や派遣ドライバーを活用し、柔軟に人員を確保することで、業務の繁閑に合わせた運用が可能となります。 - コスト管理
自社で全員を正社員として雇用すると、固定的な人件費負担が増大し、繁忙期と閑散期の差に対応しにくくなります。業務委託などを利用して、変動費化することでコストをコントロールしやすくなる一面があります。 - 専門性やスキルの外部活用
ドライバーの中には、特定の車両(大型・特殊車両)や輸送方法に特化した専門スキルを持つ人材がいます。こうしたスキルを必要なときだけ活用したい場合に、業務委託や派遣を利用するケースがあります。
リスクと対策
偽装請負・偽装派遣リスク
- 業務委託契約:実態としては労働者と同じように働かせているにもかかわらず、形式上は独立事業主として契約を結ぶことは違法です。
- 派遣契約:契約上は派遣契約としながら、労働者を直接指示・管理するなど、請負契約に近い状態になっていると疑われます。
(対策)
- 契約書に具体的な業務範囲や指揮命令権限を明記し、実態と合致させる。
- 弁護士や社労士と連携し、契約形態の適法性を定期的に点検する。
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社会保険未加入リスク
業務委託として契約しているドライバーが、実態上は労働者に該当すると判断されると、社会保険の未加入が発覚し、追徴金や是正勧告を受ける可能性があります。
(対策)
- 業務委託契約とする場合、稼働時間の自由度やサービス提供方法の独立性を徹底し、労働者性が生じないよう運用する。
- 雇用形態である場合は、社会保険・労働保険への適正加入を忘れずに行う。
労務トラブルの増大リスク
- 多様な雇用形態が混在すると、就業規則の適用範囲や給与体系の差異が原因で不満やトラブルが起きる可能性があります。
- 派遣ドライバーとのコミュニケーション不足や、外部委託先の管理が行き届かない場合、事故やクレームへの対応責任が曖昧になる恐れがあります。
(対策)
- 社内ルールの徹底周知と、雇用形態別の管理マニュアルを整備する。
- 派遣契約や業務委託契約でも、事故時やクレーム対応時の連絡フローを明文化しておく。
弁護士に相談するメリット
- 契約形態の正確な設計
雇用契約なのか業務委託契約なのかを法的に明確に区分することで、偽装請負リスクの回避が可能です。弁護士は、実態と契約書の整合性をチェックしてくれます。 - 労務トラブルへの迅速な対応
雇用形態の違いによるトラブル(未払い残業代請求、労災問題など)は複雑化しやすい分野です。弁護士へ早めに相談することで、紛争リスクを低減し、問題が起きた場合も迅速に対処できます。 - コンプライアンス体制の構築
運送業の多様な雇用形態を一元管理するには、就業規則やマニュアル整備に加え、事故時やクレーム対応時のフロー策定も必要です。弁護士が全体を俯瞰して指導することで、リスクの見落としを最小限にできます。
まとめ
雇用形態の多様化は、運送業界が抱える人手不足への対応策として必要不可欠な面がある一方で、法令遵守や労務管理の難易度を高める要因にもなっています。偽装請負や違法派遣などのリスクを回避するためには、以下の点に注意しましょう。
- 契約内容と実態の整合性
- 業務委託ドライバーの働き方が、実質的に労働契約と変わらない状態になっていないかチェック
- 派遣契約では、適切な派遣先責任者や管理台帳の整備を徹底
- 社会保険・労働保険の加入適正化
- 雇用形態によっては未加入となる場合もあるが、実態が労働者であれば加入義務あり
- 違反が発覚した場合の追徴リスクは非常に大きい
- コンプライアンス体制の強化
- 就業規則や社内マニュアルを整備し、多様な雇用形態を想定したルールづくり
- 弁護士や社労士と連携し、法改正への対応や定期的な監査を実施
- トラブルが起きる前に専門家へ相談
- 未然にリスクを把握し、早めに対策を講じる
- 問題が顕在化したら、迅速な相談で被害を最小化
運送業においては、ドライバーが「どのような雇用形態」で働いているかという点だけでなく、「実態としてどのように働いているか」が非常に重要な視点となります。もし疑問や不安がある場合は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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