2026/10/06 コラム
事業停止・車両使用停止等の行政処分|違反点数制度の仕組みと不服申立て(聴聞)
はじめに
運輸局・運輸支局の監査や、重大事故の発生、悪質な法令違反の発覚。これらをきっかけとして、運送事業者に科される最も重いペナルティが、「行政処分」です。行政処分には、特定のトラックを一定期間使用できなくする「車両使用停止」、営業所等の事業を停止させる「事業停止」、そして、最も重い「許可の取消し」等があります。
これらの処分は、会社の売上に直接的な打撃を与え、荷主や金融機関からの信用を失墜させ、時には、事業の継続そのものを不可能にする、極めて深刻な影響を及ぼします。
どのような違反をすると、どのような処分が科されるのか。その基準となるのが「違反点数制度」です。この仕組みを正しく理解し、自社の違反点数がどの程度累積しているかを把握しておくことは、経営上の重大なリスクを管理する上で不可欠です。
本記事では、この運送業の違反点数制度の仕組みと、行政処分が決定されるまでの流れ、そして、処分内容に不服がある場合に、会社が意見を述べることができる重要な機会である「聴聞」の手続きについて、弁護士が解説します。
Q&A
Q1.運送業の「違反点数」とは、ドライバー個人の運転免許の点数とは違うのですか?
A1.はい、全くの別物です。運転免許の点数は、ドライバー個人の違反に対して付与され、免許停止や取消しの基準となるものです。一方、運送業の違反点数は、運送事業者(会社)の、貨物自動車運送事業法等の法令違反に対して付与され、営業所ごと、または事業者全体に対する行政処分の基準となるものです。ドライバー個人の交通違反が、会社の安全管理義務違反として、会社の違反点数に繋がることはありますが、2つの制度は直接連動しているわけではありません。
Q2.違反点数が何点になったら、行政処分を受けるのですか?
A2.行政処分の内容は、違反行為ごとに定められた基準日車数・違反点数、累積点数、営業所の車両数、過去の処分歴、重大事故・悪質違反の有無等により決まります。「30点=30日間の事業停止」と単純に換算できるものではありません。具体的な処分見込みは、最新の「貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」及び地方運輸局の公示・運用を確認して個別に判断する必要があります。
Q3.行政処分が下される前に、会社として反論したり、意見を述べたりする機会はあるのでしょうか?
A3.はい、あります。それが「聴聞(ちょうもん)」という手続きです。事業停止や許可の取消しといった、国民の権利を大きく制限する不利益処分を行う場合、行政は、事前に、処分を受ける相手方(運送会社)の言い分を聴く機会を設けなければならない、と定められています。この聴聞の場で、事実関係の誤りを指摘したり、会社にとって有利な事情(酌むべき事情)を主張したりすることで、予定されている処分が、より軽いものに変更される可能性もあります。重要な機会です。
解説
1.行政処分の根拠となる「違反点数制度」の仕組み
運送業の行政処分は、運輸局の担当者の裁量で、恣意的に決められるわけではありません。「貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」という通達に基づき、違反点数制度によって、客観的かつ公平に実施されることになっています。
点数の付与
- 貨物自動車運送事業法や、労働基準法、道路交通法などの関係法令の違反事項ごとに、あらかじめ点数が定められています。
- (例)運行管理者の未選任、点呼の未実施、過労運転の防止措置義務違反、過積載、名義貸し等について、違反態様に応じた基準日車数・点数が定められています。点数・日車数は改正され得るため、最新基準の確認が必要です。
- 監査などで、これらの違反が確認されると、営業所ごとに違反点数が付与されます。
累積点数と処分日車数
- 監査等で付与された違反点数は、過去に遡って累積されます。
- 違反ごとの基準により「処分日車数」が算定され、これを基に車両使用停止等の処分量が決定されます。処分日車数とは、行政処分の重さを示す単位で、一般に「停止日数×停止車両数」を意味します。
処分日車数から具体的な処分へ
- 決定された処分日車数を基に、運輸局が、具体的な処分内容(「〇台のトラックを、〇日間使用停止」とするか、「営業所全体を、〇日間事業停止」とするか)を決定します。
- 例えば、車両10台の営業所が「30日車」の車両使用停止処分を受ける場合、原則として合計30日車となるよう対象車両と停止日数が指定されます。事業停止は、処分日車数の単純な割算ではなく、基準上の要件に該当する場合に別途判断されます。
違反点数の消滅
- 違反点数は一定期間累積し、過去の処分歴や累積状況により加重されることがあります。処分を受ければ直ちに全て消滅する、と単純に説明するのは避けるべきです。
- 違反点数の消滅・加重・累積期間については、最新の行政処分等の基準に基づき、違反日、処分日、過去の処分歴等を確認して判断します。
2.処分決定までの流れ
- 監査等の実施:巡回指導結果、一般監査、特別監査、重大事故、通報等を契機として、運輸局・運輸支局が法令違反の有無を確認します。
- 運輸局による処分の決定:監査結果に基づき、運輸局が違反点数を算定し、行政処分の原案を決定します。
- 聴聞または弁明の機会の付与:
- 聴聞:事業停止や許可の取消しといった、重い処分(不利益処分)を予定している場合に、開催されます。
- 弁明の機会の付与:車両使用停止などの、比較的軽い処分の場合に、書面で意見を述べる機会が与えられます。
- 行政処分の実施:聴聞等の結果を踏まえ、最終的な処分内容が決定され、「行政処分書」が交付されることで、その効力が発生します。
- 行政不服審査・行政事件訴訟:決定された処分に不服がある場合は、さらに、国に対して審査を求めたり(行政不服審査)、裁判所に処分の取消しを求めて訴訟を提起したり(行政事件訴訟)する道も残されています。
3.「聴聞」の手続き
聴聞は、行政処分が下される前の、反論の機会です。この場で、いかに説得力のある主張と立証ができるかが、処分の重さを左右します。
聴聞の進め方
- 聴聞の期日と場所が、書面で会社に通知されます。
- 当日は、運輸局の会議室などで、聴聞を主宰する職員(主宰者)と、処分の原因となる事実を主張する行政庁側の職員、そして、処分を受ける会社側の三者が集まります。
- 行政庁側が、処分の原因となる事実と、予定している処分の内容を説明し、その後、会社側が、それに対する意見を述べ、証拠を提出します。
聴聞で会社が主張すべきこと
- 事実関係の誤りの指摘
行政庁が認定した違反事実に、そもそも誤りがある場合。「点呼記録簿の記載漏れ」と指摘されたが、実際には別の場所に記録があった、など。 - 酌むべき事情(情状酌量)の主張:
- 違反の事実は認めるものの、処分を軽減してもらうための、会社にとって有利な事情を主張します。
- (例)
- 違反が、悪意や故意によるものではなく、担当者の知識不足による過失であったこと。
- 監査後、直ちに全社的な改善措置を講じ、既に是正が完了していること。
- 長年にわたり、無事故・無違反で、優良事業者として地域社会に貢献してきた実績。
- Gマーク(安全性優良事業所)の認証を取得していること。
- 処分が科されると、多くの従業員の雇用や、地域経済に深刻な影響を及ぼすこと。
これらの主張は、単に口頭で述べるだけでなく、改善計画書や、従業員の嘆願書、取引先からの感謝状といった、客観的な証拠資料を添付して行うことが重要です。
弁護士に相談するメリット
行政処分、特に聴聞の手続きは、法的な知識と、行政手続きへの習熟が求められます。弁護士は、会社の代理人または補佐人として、聴聞の場で大きな力を発揮します。
1. 聴聞に向けた戦略立案
行政庁が指摘する違反事実を法的に分析し、どこに争う余地があるのか、どのような有利な事情を主張すべきか、処分の回避または軽減に向けた最適な戦略を立案します。
2. 証拠の収集と準備
主張を裏付けるための、客観的で説得力のある証拠(改善報告書、コンプライアンス研修の記録など)を、効果的に収集・作成するサポートをします。
3. 処分後の不服申立て
聴聞を経てもなお、不当に重い処分が下された場合に、その後の行政不服審査請求や、行政事件訴訟といった、さらなる法的手続きを代理して行うことができます。
まとめ
行政処分は、運送事業者にとって、事業の存続を左右する最大の経営リスクです。その引き金となる違反点数が累積しないよう、日頃から法令を遵守し、健全な管理体制を維持することが、何よりも重要です。
しかし、万が一、監査で違反を指摘され、行政処分の対象となってしまった場合でも、決して諦めてはいけません。「聴聞」という、会社の言い分を法的に主張できる、重要な機会が残されています。このチャンスを最大限に活かすためには、感情論ではなく、法的な根拠と客観的な証拠に基づいた、説得力のある主張が不可欠です。
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