コラム

2026/10/05 コラム

巡回指導・運輸局監査は突然来ることもある|指摘事項と対応策

はじめに

運送事業者にとって、日々の業務運営において、最も緊張が走る瞬間の一つが、巡回指導や運輸局・運輸支局による監査です。これらは、運送事業者が貨物自動車運送事業法をはじめとする関係法令を遵守し、輸送の安全を確保するための体制を適切に構築・運用しているかを確認するために行われます。

「うちは真面目にやっているから大丈夫」と思っていても、日々の業務に追われる中で、知らず知らずのうちに、帳票類の記録・保存漏れや、管理体制の不備が生じているケースは少なくありません。そして、監査で法令違反が指摘されれば、是正勧告に留まらず、車両の使用停止や営業停止といった、事業の継続に致命的な影響を及ぼす「行政処分」に繋がる可能性があります。

監査は、ある日突然、予告なしに行われることもあります。本記事では、運送事業者が知っておくべき、巡回指導と運輸局監査の違い、監査で特に厳しくチェックされる項目、そして、いざという時に慌てないための平時からの具体的な対策について、弁護士が解説します。

Q&A

Q1.巡回指導と運輸局監査は、どのように違うのですか?

A1.巡回指導は、原則として地方貨物自動車運送適正化事業実施機関(各都道府県トラック協会等)が行う指導・確認であり、運輸局の監査そのものではありません。これに対し、運輸局・運輸支局による監査は、法令違反の有無を確認し、必要に応じて行政処分につながる行政上の調査です。重大事故、悪質な法令違反、巡回指導結果の著しい不良、苦情・通報等を契機として、特別監査等が行われることがあります。

Q2.監査では、具体的にどのような点が、特にチェックされるのでしょうか?

A2.チェック項目は多岐にわたりますが、特に重点的に見られるのは、「安全管理」と「労務管理」に関する帳票類です。具体的には、点呼記録(アルコールチェックの記録を含む)、乗務記録(運転日報)、運転者台帳、運行指示書、点検整備記録等が、法令上の記載事項を満たして正確に作成・保存されているかが確認されます。また、改善基準告示に基づく拘束時間・休息期間、時間外労働の上限、運行管理者・整備管理者の選任・職務遂行状況も重要なチェックポイントです。

Q3.監査で法令違反を指摘されてしまいました。今後、どうなってしまうのでしょうか?

A3.指摘された違反の程度によります。軽微な不備であれば、その場で「改善指導」を受け、後日、改善報告書を提出することで完了する場合もあります。しかし、違反が常態化していたり、悪質であったりすると、運輸局は、違反点数制度に基づき、車両停止や事業停止といった「行政処分」を科すための手続き(聴聞など)に進むことになります。違反の指摘を受けた場合は、その内容を真摯に受け止め、速やかに改善措置を講じるとともに、今後の手続きについて、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

解説

1.監査の目的と種類

運輸局・運輸支局による監査の最大の目的は、個々の運送事業者の法令遵守状況を確認することで、業界全体の「輸送の安全」を確保することにあります。なお、巡回指導は運輸局監査そのものではなく、地方貨物自動車運送適正化事業実施機関による指導・確認です。いずれも、自社の管理体制の弱点を発見し、改善する機会と捉えることができます。

①巡回指導(適正化事業実施機関による指導)

  • 対象:営業所(新規許可後の初回指導や定期的な巡回指導など)。
  • 実施主体・頻度:各都道府県トラック協会等の地方貨物自動車運送適正化事業実施機関が実施します。頻度は営業所の状況や地域の運用により異なります。
  • 方法:多くは事前連絡のうえ、適正化事業指導員が営業所を訪問し、帳票類の確認や運行管理者へのヒアリングを行います。
  • 目的:法令遵守状況の全般的な確認、啓発、改善指導。評価が著しく不良な場合等は、運輸局・運輸支局による監査につながり得ます。

②運輸局・運輸支局による監査(一般監査・特別監査等)

  • 対象:法令違反の疑いがある事業者、重大事故を惹起した事業者、巡回指導結果が著しく不良な事業者等。
    • 重大な交通事故(死亡・重傷事故など)を引き起こした事業者。
    • 悪質な法令違反(飲酒運転、過積載など)が発覚した事業者。
    • 労働基準監督署など、他機関から法令違反の通報があった事業者。
    • 内部告発や、利用者からの苦情があった事業者。
  • 方法:監査の種類・端緒により、事前通告の有無や調査範囲は異なります。特別監査では、予告なく複数の監査官が営業所を訪問し、重点的・網羅的な調査が行われることがあります。
  • 目的:法令違反の事実を確認し、必要に応じて改善命令、車両使用停止、事業停止、許可取消し等の行政処分の要否を判断すること。

2.ここが見られる!監査における重要チェック項目

巡回指導員又は監査官は、貴社が「安全」と「労務」に関する法令を日々の業務に正しく落とし込んでいるかを、客観的な「帳票」によって確認します。

【最重要】主要な法定帳票

  1. 点呼記録簿
    • 乗務前・乗務後等の点呼が、対象となる乗務員に対して適切に実施されているか。対面点呼を基本としつつ、IT点呼・遠隔点呼等を用いる場合は、法令上の要件を満たしているか。
    • アルコール検知器によるチェック記録(測定値、日時)が、正確に記載・保存されているか。
    • 点呼執行者(運行管理者または補助者)の氏名が記載されているか。
  2. 運転日報(乗務記録)
    • ドライバー名、乗務した車両の登録番号、乗務の開始・終了日時、走行距離、主な経過地、休憩・仮眠の地点及び日時などが、具体的に記録されているか。
    • 改善基準告示に違反するような、長時間労働や、不十分な休息時間となっていないか。
  3. 運転者台帳ドライバーごとに作成され、法令で定められた記載事項(氏名、生年月日、雇入れ年月日、運転免許に関する情報、健康診断の結果、事故・違反の記録など)が、漏れなく、かつ最新の情報に更新されているか。

その他の重要チェック項目

  • 運行管理・整備管理:運行管理者・整備管理者が、適法に選任され、運輸局に届け出られているか。資格者証の原本が営業所に備えられているか。
  • 労働時間管理:36協定が適正に締結・届出されているか。時間外労働が上限(年960時間など)を超過していないか。
  • 社会保険:全ての対象者が、社会保険・労働保険に加入しているか。
  • 車両管理:事業用自動車の点検整備記録簿が、適切に作成・保存されているか。
  • 運賃・約款:運賃料金設定届が提出されているか。運送約款が営業所に見やすく掲示されているか。

監査官は、これらの帳票を突き合わせ、矛盾点がないかを厳しくチェックします(例:運転日報の休憩時間と、点呼記録簿の時刻に矛盾はないか、など)。

3.監査に備えるための平時からの対策

「監査対策」とは、監査の直前に、慌てて書類を繕うことではありません。日々の業務の中で、法令を遵守し、その記録を正確に残していく、地道な積み重ねこそが、最良の監査対策です。

  1. 帳票類の徹底管理:
    • 法令で定められた様式・記載事項を正確に理解し、毎日、記録を怠らない。
    • 記載漏れや、不正確な記録があれば、その日のうちに修正・追記する習慣をつける。
    • 帳票類ごとの保存期間(点呼記録・乗務記録・運行指示書・事故記録・運転者台帳等)を確認し、法定期間中は整理・保管する。
  2. ダブルチェック体制の構築:
    • ドライバーが作成した運転日報などを、運行管理者が毎日チェックし、署名・押印する。
    • 労働時間や拘束時間に、改善基準告示違反の恐れがないか、常に確認する。
  3. 定期的な自主点検(セルフ監査):
    • 監査でチェックされる項目をリスト化し、月に一度など、定期的に社内で自主点検を行う。
    • これにより、自社の弱点を早期に発見し、改善することができます。
  4. 専門家の活用:
    運送業に詳しい弁護士や行政書士、社会保険労務士に依頼し、定期的にコンプライアンス状況をチェックしてもらうことも有効です。第三者の客観的な視点で、自社では気づきにくい問題点を指摘してもらえます。

弁護士に相談するメリット

巡回指導・運輸局監査への対応は、法的な知識と、行政手続きへの的確な対応が求められる場面です。

1. 平時からのコンプライアンス体制構築支援

監査で指摘を受けやすい項目を中心に、貴社の帳票管理や労務管理体制を法的な観点からチェックし、具体的な改善策を提案します。監査に耐えうる、盤石なコンプライアンス体制の構築を支援します。

2. 是正・改善報告書の作成サポート:

監査で違反事項を指摘され、改善報告書の提出を求められた場合に、その内容が、法令の要求する水準を満たし、かつ、実現可能な改善計画となっているか、法的な観点からレビューし、作成を支援します。

3. 行政処分(聴聞)への対応:

監査の結果、行政処分が見込まれる場合には、その前段階で行われる「聴聞」の手続きにおいて、代理人として、会社にとって有利な事情を主張・立証し、処分の回避または軽減を目指します。

まとめ

巡回指導・監査は、運送事業者にとって、自社のコンプライアンス体制を見直す、いわば「健康診断」のようなものです。監査を恐れ、その場しのぎの対応をするのではなく、日頃から法令を遵守し、その証となる記録を、正確かつ誠実に作成・管理していく姿勢こそが重要です。

しっかりとした管理体制を構築しておけば、監査は決して怖いものではありません。むしろ、自社の健全性を行政に証明し、社会的な信頼を得るための機会となります。

日々の帳票管理や、いつ来るか分からない監査に不安を抱えている経営者様は、ぜひ一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社が安心して事業に専念できるよう、監査に強い組織作りをサポートいたします。


 

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