2026/02/25 コラム
「利用運送」とは?実運送との違いと第一種・第二種貨物利用運送事業の許可要件
はじめに
運送業界において、自社でトラックや船舶などの輸送手段を持たずに、他の運送事業者の輸送網を利用して貨物を運ぶ「利用運送(貨物利用運送事業)」の重要性が高まっています。
ドライバー不足や燃料費高騰といった課題に直面する中、効率的な物流網を構築するために、この「利用運送」の仕組みを活用する事業者が増えているのです。業界では「水屋(みずや)」と呼ばれることもあり、トラックを1台も持たずに運送業へ参入できるビジネスモデルとしても注目されています。
しかし、単に「横流し」をするだけでは事業として認められず、法的には「貨物利用運送事業法」に基づく厳格な登録や許可が必要です。無許可で営業を行えば、厳しい罰則が科されるだけでなく、取引先からの信用を失うことにもなりかねません。
本記事では、運送業の法務に詳しい弁護士が、利用運送と実運送の違い、第一種と第二種の違い、そして事業を始めるための具体的な許可要件について解説します。これから利用運送事業への参入を検討されている方や、既に事業を行っているもののコンプライアンスに不安がある方は、ぜひ参考にしてください。
利用運送に関するQ&A
詳細な解説に入る前に、利用運送に関してよく寄せられる疑問をQ&A形式で解説します。
Q1. 「利用運送」と単なる「取次(紹介)」は何が違うのですか?
運送に対する「責任の所在」が異なります。
「取次(とりつぎ)」は、荷主と実運送事業者の間を取り持ち、契約の媒介をする行為です。運送契約は荷主と実運送事業者の間で直接結ばれ、取次業者は運送自体の責任を負いません。
一方、「利用運送」は、利用運送事業者が荷主と運送契約を結び、自らが運送人として全責任を負って貨物を引き受けます。その上で、実運送事業者に実際の輸送を下請けに出す形態です。荷主から見れば、利用運送事業者が契約の相手方となります。
Q2. トラックを1台も持っていませんが、運送業を始められますか?
はい、可能です。
貨物利用運送事業法に基づく登録または許可を受ければ、自社で車両(トラック等)を保有していなくても運送事業を行うことができます。これをいわゆる「ノンアセット型」の物流事業と呼びます。ただし、実際に運送を行う実運送事業者との間で、確実な運送委託契約が締結されていることが前提となります。
Q3. 無許可で利用運送を行うとどうなりますか?
重い刑罰が科される可能性があります。
許可が必要な第二種貨物利用運送事業を無許可で行った場合、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科される可能性があります。登録が必要な第一種の場合でも、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。また、法令違反として行政処分の対象となり、会社名が公表されるリスクもあります。
「利用運送」とは?実運送との違い
利用運送の定義
「貨物利用運送事業」とは、他人の需要に応じ、有償で、実運送事業者の行う運送(トラック、船舶、航空、鉄道)を利用して行う貨物の運送を指します(貨物利用運送事業法第2条)。
簡単に言えば、荷主から運賃をいただいて荷物を預かり、実際の輸送はパートナー企業(実運送事業者)に依頼して運んでもらうビジネスのことです。
実運送との違い
大きな違いは、「自ら輸送手段(トラック等)を使って運ぶかどうか」です。
- 実運送(じつうんそう)
自社のトラック、船、飛行機などを使って、実際にモノを運ぶ事業。一般貨物自動車運送事業などがこれに該当します。 - 利用運送(りよううんそう)
自らは輸送手段を使わず(持たず)、実運送事業者に輸送を委託して運ぶ事業。自社でトラックを持っていても、自社のトラックで運びきれない分を協力会社に依頼する場合は、その部分については「利用運送」となります。
運送会社が自社のトラックで運びつつ、繁忙期などに一部の荷物を協力会社に流すケースは日常的に行われていますが、この「協力会社に依頼する行為」も反復継続して行えば利用運送事業の登録が必要になる点には注意が必要です。
第一種と第二種の違い
貨物利用運送事業は、その業務の範囲や輸送モードの組み合わせによって「第一種」と「第二種」に分類されます。
1. 第一種貨物利用運送事業(登録制)
実運送事業者の行う運送(自動車、鉄道、船舶、航空)のいずれか一つを利用して行う運送、または第二種に該当しない運送を指します。
特徴
- トラックのみを利用した運送(いわゆる「水屋」業務)はこれに該当します。
- 船舶や航空を利用する場合でも、港から港、空港から空港までの輸送であれば第一種となります。
2. 第二種貨物利用運送事業(許可制)
鉄道、船舶、航空のいずれかの運送機関を幹線輸送として利用し、その前後の集荷・配送をトラック等で行う、いわゆる「複合一貫輸送(ドア・ツー・ドア)」を行う事業です。
特徴
- 荷主の戸口(集荷)から届け先の戸口(配達)まで、異なる輸送モードを組み合わせて一貫した責任を持って運びます。
- 例:トラックで集荷 → 鉄道コンテナで幹線輸送 → トラックで配達
|
項目 |
第一種貨物利用運送事業 |
第二種貨物利用運送事業 |
|
主な形態 |
トラック、船舶、航空、鉄道のいずれかを利用 |
幹線輸送(鉄道・船・空)+ 前後のトラック集配 |
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手続の種類 |
登録 |
許可 |
|
審査期間(目安) |
2〜3ヶ月 |
3〜4ヶ月 |
|
ハードル |
比較的低い |
高い(集配計画等が必要) |
貨物利用運送事業の許可・登録要件
これから事業を始めるために必要な主な要件は、第一種・第二種ともに「人・物・金・契約」の4つの柱で構成されています。ここでは共通する主要な要件を解説します。
1. 財産的基礎(金)
事業を安定して継続するために必要な資金力です。
純資産が300万円以上あることが要件となります。
- 既存法人の場合: 直近の決算書(貸借対照表)において、純資産の部が300万円以上であること。もし債務超過などで満たしていない場合は、増資などを行い要件を満たす必要があります。
- 新規設立の場合: 資本金が300万円以上の会社を設立する必要があります。
2. 施設要件(物)
事業を行うための営業所や保管施設に関する要件です。
- 使用権原: 営業所や店舗について、自己所有であるか、あるいは賃貸借契約期間が1年以上残っているなど、正当に使用できる権限があること。
- 法令遵守: 都市計画法(市街化調整区域でないこと等)、建築基準法、農地法などの関係法令に違反していない建物であること。自宅兼事務所でも可能ですが、居住スペースと明確に区分されている必要があります。
3. 人員・欠格事由(人)
申請者や役員が、法律を守って事業を行える人物であるかどうかが問われます。
- 1年以上の懲役または禁錮の刑に処せられ、その執行を終わり2年を経過していない者でないこと。
- 貨物利用運送事業の登録・許可を取り消され、2年を経過していない者でないこと。
- 申請前2年以内に、貨物利用運送事業に関し不正な行為をしていないこと。
4. 実運送事業者との契約(契約)
これが利用運送事業特有の要件です。
実際に荷物を運ぶ実運送事業者との間で、有効な運送委託契約が締結されていることが必要です。第二種の場合は、幹線輸送を行う事業者(鉄道・海運・航空)と集配を行うトラック事業者の両方との契約・協力体制が必要となります。
弁護士に相談するメリット
利用運送事業の立ち上げや運営に関して、弁護士に相談することには大きなメリットがあります。
1. 複雑な許可・登録申請の代行とスキーム確認
貨物利用運送事業法の手続きは複雑で、添付書類も多岐にわたります。特に、自社の行いたいビジネスが「第一種」なのか「第二種」なのか、あるいは「取次」でよいのかの判断は難しく、誤った区分で申請すると事業開始が遅れる原因となります。弁護士は、ビジネスモデルの適法性をチェックし、最適な許可申請をサポートします。
2. 実運送事業者との契約書作成・リーガルチェック
利用運送事業における最大のリスクは、荷主に対する責任と、実運送事業者(下請け)に対する求償の関係です。荷物が破損した場合、利用運送事業者は荷主に対して全額賠償する義務を負いますが、実運送事業者との契約が曖昧だと、その損害を実運送事業者に請求できない(あるいは制限される)恐れがあります。
弁護士は、こうしたリスクを回避するために、責任の所在や求償条件を明確にした契約書を作成します。
3. 立ち上げ後の法的トラブル対応
事業開始後も、運賃の未払い問題、貨物事故の損害賠償、再委託先(下請け)の法令違反など、様々なトラブルが予想されます。顧問弁護士がいれば、これらのトラブル発生時に迅速に対応し、損害を最小限に抑えることができます。
まとめ
「利用運送」は、資産を持たずに物流ビジネスを展開できる魅力的な事業形態ですが、その裏には「荷主に対して全責任を負う」という重い法的責任と、厳格な許認可要件が存在します。
「知らなかった」で無許可営業をしてしまうと、行政処分や刑事罰の対象となり、会社の存続に関わります。
純資産要件(300万円)や営業所の用件、そして実運送事業者との契約締結など、クリアすべきハードルは低くありません。安全かつ適法に事業をスタートさせるためにも、利用運送の登録・許可申請や契約書の整備については、運送業の法務に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。貴社のビジネスモデルに合わせた最適なサポートを提供いたします。
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