コラム

2026/02/03 コラム

運送業のドライバーが逮捕されたら?会社の初動対応と刑事弁護・労務管理を弁護士が解説

はじめに

運送業を営む企業にとって、所属するドライバーが重大な交通事故を起こし、逮捕されるという事態は、まさに悪夢のようなシナリオです。

「従業員が警察に連れて行かれた」「ニュースで自社のトラックが映っている」といった一報を受けた際、経営者や運行管理者はパニックに陥りやすいものです。しかし、このような緊急時こそ、会社としての冷静かつ迅速な対応が求められます。

ドライバーの逮捕は、単に個人の刑事責任にとどまらず、会社の社会的信用(レピュテーション)、被害者への損害賠償責任(民事責任)、そして今後の行政処分など、企業の存続に関わる重大なリスクへと直結します。

また、逮捕されたドライバー本人への接見や家族への連絡、マスコミ対応、そして何より被害者への誠意ある対応など、やるべきことは山積みです。

「逮捕されたドライバーは解雇すべきか?」「会社に捜査の手が及ぶことはあるのか?」「被害者へのお詫びはどのタイミングで行くべきか?」

こうした疑問に対して、法的な知識なしに自己判断で動くことは危険です。

本稿では、運送会社のドライバーが逮捕された際の法的な流れ(刑事手続)、会社が直ちに行うべき初動対応、ドライバーに対する労務上の処遇、そして刑事弁護活動が会社のリスク管理にどう寄与するかについて解説します。

ドライバー逮捕に関するQ&A

Q1. 逮捕されたドライバーを「就業規則違反」として即時に懲戒解雇しても問題ありませんか?

即時の懲戒解雇はリスクが高く、無効となる可能性があります。

逮捕された事実だけをもって、直ちに解雇することは一般的に認められません。「有罪判決が確定するまでは無罪と推定される」という原則があるほか、懲戒解雇には客観的で合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。

事故の態様や過失の程度、過去の勤務態度などを調査せず、感情的に解雇を通告すると、後に「不当解雇」として訴えられ、地位確認やバックペイ(解雇期間中の賃金)の支払いを命じられるリスクがあります。まずは「起訴休職」などの処分を検討し、事実関係が明らかになってから最終的な処分を決定すべきです。

Q2. ドライバー個人の責任だけでなく、会社も警察の捜査対象になりますか?

会社の管理体制に問題がある場合、捜査対象となる可能性があります。

ドライバーの事故原因が、過労運転、過積載、整備不良、あるいは無理な運行指示にあったと疑われる場合、警察は会社に対して「道路運送法違反」や「業務上過失致死傷罪(の共犯的責任)」などの容疑で捜査を行うことがあります。

警察による事務所の家宅捜索(ガサ入れ)が行われ、点呼記録や運行指示書、タコグラフなどの帳票類が押収されるケースも珍しくありません。

Q3. 被害者への謝罪に行きたいのですが、警察に止められています。どうすればよいですか?

警察の指示に従いつつ、弁護士を通じてタイミングを調整することが重要です。

捜査の初期段階では、証拠隠滅や口裏合わせを防ぐため、当事者や関係者の接触が制限されることがあります。しかし、民事上の責任を負う会社(使用者)として、被害者への謝罪や被害弁償の申し入れを遅らせることは得策ではありません。

このような場合、弁護士が介入し、捜査機関と協議した上で、適切なタイミングと方法で謝罪や示談交渉の申し入れを行うことがスムーズです。保険会社の担当者とも連携し、誠意ある対応を示す姿勢を記録に残しておくことが大切です。

解説:ドライバー逮捕後の刑事手続きと会社の対応

1. 適用される法律と罪名

交通事故による死傷事故の場合、かつては刑法の「業務上過失致死傷罪」が適用されていましたが、現在はより厳罰化された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)」が適用されます。

  • 過失運転致死傷罪(同法5条)
    一般的な前方不注意や操作ミスによる事故に適用されます。
    (法定刑:7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)
  • 危険運転致死傷罪(同法2条、3条)
    アルコールや薬物の影響、制御困難な高速度、あおり運転などの悪質な行為による事故に適用されます。
    (法定刑:負傷の場合は15年以下の拘禁刑、死亡の場合は1年以上の有期拘禁刑最高20年)

会社としては、ドライバーがどの容疑で逮捕されたのかを正確に把握することが第一歩です。それによって、事態の深刻度や対応方針が大きく異なるからです。

2. 逮捕から起訴までの流れ(時間との勝負)

日本の刑事司法手続きは非常にタイトなスケジュールで進みます。会社が対応を検討している間にも、手続きは淡々と進んでいきます。

  1. 逮捕(最大72時間)
    警察署に連行され、取り調べを受けます。この間は家族であっても面会できないことが多く、唯一自由に面会(接見)できるのは弁護士だけです。
  2. 送検(送致)
    逮捕から48時間以内に、警察から検察庁へ身柄と書類が送られます。
  3. 勾留(最大20日間)
    検察官が「逃亡や証拠隠滅の恐れがある」と判断し、裁判所が認めれば、原則10日間、延長されれば最大20日間の身柄拘束(勾留)が続きます。
  4. 起訴・不起訴の決定
    勾留期間満了までに、検察官はドライバーを裁判にかけるか(起訴)、釈放するか(不起訴・略式起訴)を決定します。

日本の刑事裁判の有罪率は99.9%と言われています。つまり、「起訴されるかどうか」が最大の分岐点であり、逮捕直後から起訴決定までの最大23日間が、弁護活動にとって最も重要な期間となります。

3. 会社が直ちに行うべき初動対応

ドライバー逮捕の一報を受けたら、以下の対応を迅速に行う必要があります。

① 情報収集と事実確認

警察署に連絡し、以下の点を確認します(ただし、捜査上の秘密として教えてもらえないこともあります)。

  • 逮捕された容疑(罪名)
  • 事故の概要(被害者の状況、場所、原因)
  • ドライバーの認否(認めているか、否認しているか)
  • 面会の可否

② 弁護士の派遣(初回接見)

刑事弁護に詳しい弁護士に連絡し、警察署へ接見に行ってもらいます。

弁護士を通じて、ドライバー本人から事故の真実を聞き出し、精神的なケアを行うとともに、今後の取調べに対するアドバイス(黙秘権の行使など)をしてもらいます。これが会社として正確な情報を得るための生命線となります。

③ 証拠の保全

警察の家宅捜索に備え、あるいは自社の正当性を証明するために、以下の資料を散逸しないよう確保します。決して改ざんや隠蔽をしてはいけません。

  • 運転日報、点呼記録簿
  • タコグラフ、ドライブレコーダーの映像
  • 車両の整備管理記録簿
  • ドライバーの健康診断結果、過去の指導記録
  • 就業規則、運行管理規程

④ 被害者対応と保険会社への連絡

人命に関わる事故の場合、被害者感情は極めて峻烈です。保険会社に連絡して事故対応を依頼するのは当然ですが、会社としても「運行供用者(自賠法3条)」および「使用者(民法715条)」として、責任ある対応を見せる必要があります。

お見舞いや葬儀への参列については、保険会社や弁護士と相談の上、慎重かつ誠実に行います。

⑤ マスコミ対応

重大事故の場合、新聞やテレビの取材が入ることがあります。「担当者が不在」「わかりません」と逃げ回ると、「隠蔽体質の会社」という印象を与えかねません。

弁護士と相談の上、想定問答を作成し、窓口を一本化して事実に基づいた慎重なコメントを発表する準備をします。

4. 会社も捜査される「両罰規定」と「背後責任」

ドライバー個人の過失であれば会社の刑事責任は問われませんが、事故の背景に会社のずさんな管理があった場合、会社や代表者、運行管理者も処罰される可能性があります。

  • 道路運送法違反: 名義貸し、無許可営業、運賃の不当な割引など。
  • 労働基準法違反: 36協定を超える違法な長時間労働、改善基準告示違反。
  • 過失運転致死傷罪の共犯: 無理な運行計画により、過労運転や過積載を命じていた場合、運行管理者などが事故の共犯として処罰される可能性があります。

警察は、事故現場の検証だけでなく、会社の運行管理の実態についても厳しく捜査します。「過労運転下命」などが認定されれば、行政処分(事業停止や許可取消し)の対象にもなり、会社の存続に関わります。

5. ドライバーに対する労務対応

逮捕されたドライバーをどう処遇するかは、難しい問題です。

  • 起訴休職の検討
    就業規則に「刑事事件で起訴された場合は休職とする」という規定があれば、それを適用します。起訴されるまでの勾留期間中は、「ノーワーク・ノーペイ」の原則により賃金の支払いは不要ですが、会社都合の休業とみなされないよう注意が必要です。
  • 解雇の判断
    有罪判決(実刑判決や執行猶予付き判決)が確定し、長期間労務を提供できないことが確定した段階、あるいは「重大な経歴詐称」や「飲酒運転」などの明白な就業規則違反が確認された段階で、懲戒解雇や諭旨解雇を検討します。

逮捕段階での拙速な解雇は避け、弁護士と相談しながら進めるべきです。

刑事弁護の重要性:会社がドライバーを支援する意義

「事故を起こしたドライバーのために、会社が弁護士費用を出して弁護活動をする必要があるのか?」

経営者の中には、そう疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、会社が主体的に刑事弁護に関与することには、会社自身にとっても大きなメリットがあります。

1. 早期の身柄解放(保釈・不起訴)の可能性を高める

ドライバーが長期間勾留されれば、退職のリスクが高まり、人手不足の運送会社にとっては痛手です。

弁護士が活動し、会社が「身元引受人」となって今後の監督を誓約することで、早期の釈放や保釈が認められやすくなります。また、被害者との示談が成立すれば、不起訴処分や略式命令(罰金)で済む可能性も高まります。

2. 被害者対応の円滑化(民事賠償への好影響)

刑事弁護の一環として行われる「示談交渉」は、民事上の損害賠償問題の解決にも直結します。

刑事手続きの中で、弁護士を通じて被害者の処罰感情を和らげ、示談(宥恕条項付き)を成立させることができれば、民事訴訟での紛争長期化や、高額な慰謝料請求のリスクを低減させることができます。

3. 会社の監督責任・管理体制の証明

弁護活動を通じて、「事故はドライバー特有の事情によるものであり、会社の管理体制に不備はなかった」こと、あるいは「会社として再発防止策を講じている」ことを裁判所や捜査機関に主張することができます。

これは、会社への「背後責任」の追及を防ぎ、行政処分を軽減するためにも重要な活動です。ドライバー個人を見捨てて「トカゲの尻尾切り」をするような態度は、かえって検察官や裁判官、そして社会からの心証を悪くします。

弁護士に相談するメリット

運送業のドライバー逮捕事案は、刑事事件、交通事故実務、労働問題、そして行政法規が複雑に絡み合う難易度の高い分野です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談いただくことで、以下のような多角的なサポートが可能になります。

1. 刑事・民事・労務のワンストップ対応

刑事事件専門の弁護士だけでは労働問題の視点が抜け落ち、交通事故専門の弁護士だけでは刑事手続きのスピードに対応できないことがあります。当事務所では、各分野に精通した弁護士が連携し、刑事弁護活動と並行して、被害者対応や従業員の処遇、マスコミ対応までを総合的にサポートします。

2. 迅速な接見と正確な状況把握

逮捕直後の混乱期において、弁護士はいち早く警察署へ向かい、ドライバーと接見します。外部との連絡が遮断されたドライバーにとって、弁護士は唯一の味方であり、精神的な安定を取り戻させることができます。これにより、事実と異なる不利な供述調書が作成されるのを防ぎます。

3. 会社のリスク管理と行政対応

捜査機関による会社への捜査(家宅捜索など)への立会いや助言、運輸支局への事故報告書の作成支援、行政処分を見越した聴聞手続きへの対応など、会社を守るための法務サポートを提供します。

4. 適切な示談交渉

被害者感情に配慮しつつ、適正な条件での示談を目指します。特に死亡事故や重傷事故の場合、示談の成否がドライバーの量刑だけでなく、会社の社会的評価にも大きく影響します。経験豊富な弁護士が間に入ることで、冷静かつ建設的な話し合いが可能になります。

まとめ

運送会社のドライバーが逮捕されるという事態は、会社にとって存亡の危機になり得る緊急事態です。

しかし、ここでパニックになり、ドライバーを突き放したり、隠蔽工作のような動きをしてしまったりすれば、取り返しのつかないダメージを負うことになります。

重要なのは、「事実は何か」を正確に把握し、「法律に従って」誠実に対応することです。

会社が身元引受人となり、弁護士を通じて被害者に誠意を尽くし、再発防止を誓う姿勢を示すことは、ドライバー個人の救済だけでなく、会社自身のコンプライアンス体制と社会的信頼を守ることにつながります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所は、運送業界の法務に特化し、多くの事故対応や刑事弁護、労務管理の実績を有しています。

「ドライバーが逮捕された」「警察から連絡が来た」という緊急時には、昼夜を問わず、直ちにご相談ください。貴社の危機管理パートナーとして、最善の結果を導くために全力を尽くします。


 

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