コラム

2025/01/09 コラム

運送業における長時間労働・過労運転の防止のためのポイント

はじめに

運送業界では、ドライバーの長時間労働や過労運転が社会的に大きな問題となっています。過酷な運転スケジュールや、荷主からの無理な依頼に対応するうちに拘束時間が延び、心身ともに疲弊してしまうドライバーは少なくありません。さらに、長時間労働による疲労の蓄積が原因で、注意力の低下や運転操作ミスを招くリスクが高まり、重大事故につながるおそれも指摘されています。

こうした問題に対処するため、政府や監督官庁は「過労死ライン」の厳格化や罰則強化の方向で動いています。また、労働基準法や道路交通法、さらに安全衛生法といった法規制を適切に守るために、事業者としての体制整備が急務となっています。運送業に特有の「荷待ち時間」や「不規則な休憩時間」をどのように管理し、ドライバーの健康を守りながら経営を進めていくのか。これは、いま多くの運送事業者が直面している重大な課題です。

本記事では、長時間労働・過労運転の防止をテーマに、運送業界の現場が抱える問題点や、法令上のポイント、実務での注意点をQ&A形式でまとめています。さらに、対策を行ううえでの具体的な施策や、弁護士に相談するメリットなども解説いたしますので、ぜひ参考にしてください。

Q&A

Q1.「過労死ライン」とは何ですか?

「過労死ライン」とは、過重労働による健康障害を認定する際の目安として示される残業時間数を指します。一般的には、月80時間超の残業が26か月にわたって継続、または発症日の直近1ヵ月で月100時間超の残業があった場合などが「過労死ライン」とされます。運送業界でも、この基準を超える労働が常態化していると、重大な健康被害が生じる可能性があるため、徹底した労務管理が求められます。

Q2.運送業界で長時間労働が多発する原因は?

運送業界で長時間労働が多発する原因には、荷待ち時間や過密な配車スケジュール、渋滞などによる遅延が挙げられます。とくに、荷主や取引先の都合によって待機を余儀なくされる場合でも、ドライバーは会社の指示下にあるため、その時間が労働時間に算入される可能性が高いです。また、適切な休憩場所の確保が難しいことも労働時間管理を複雑にします。

Q3.長時間労働や過労運転を防ぐために事業者ができる具体策は?

まずは運行管理体制の見直しを行い、無理なスケジュールを組まないようにすることが大切です。具体的には、配車計画の適正化、荷主との契約内容の再検討、ドライバーの健康状態をモニタリングできるシステムの導入などが効果的とされています。さらに、勤務間インターバル制度の導入や、分割休憩の明確化を図ることも有効です。

Q4.監督官庁の指導や罰則強化の動向はどうなっていますか?

働き方改革の一環として、運送業界でも残業時間の上限規制の適用猶予が縮小・廃止される方向にあります。また、違反が発覚した場合の罰則や、労働基準監督署による立ち入り調査の強化など、外部からの監督がより厳しくなる傾向にあります。過労運転を放置した場合、道路交通法違反だけでなく安全配慮義務違反による損害賠償リスクも高まるため、早期に対策を打ち立てることが重要です。

解説

長時間労働・過労運転のメカニズム

  1. 拘束時間と労働時間の混同
    運送業では、車両の停止中であっても指揮命令下にある時間は労働時間となります。休憩とみなされない「荷待ち時間」が増えるほど、結果的に長時間労働とみなされるリスクが高くなります。
  2. 心身への影響
    長時間運転が続くと、疲労や眠気、集中力の低下が顕著になり、事故リスクが飛躍的に高まります。また、交代制勤務などで睡眠リズムが乱れると、心疾患や生活習慣病のリスクも上昇します。
  3. 過労死・過労自殺
    ドライバーが慢性的な長時間労働を強いられていると、うつ病などの精神疾患に陥り、自殺や過労死を招く可能性も否定できません。事業者側は、早期に異常を察知し医療機関や専門家につなぐ体制を整備することが大切です。

関連法規の概要

  1. 労働基準法
    18時間・週40時間を基本とする労働時間制や、割増賃金の支払い義務、休憩時間の確保などを定めています。特に「36協定」の締結や残業時間の上限規制を厳守しなければ、労働基準監督署の是正勧告や罰則を受ける可能性があります。
  2. 道路交通法
    過労運転や過積載などの違反行為に対し、事業者に対しても管理監督責任が課される場合があります。運行管理者の配置義務や、定期的な安全教育の実施など、事業用自動車を使用するうえで守るべきルールが定められています。
  3. 労働安全衛生法
    労働者の健康管理義務や、定期健康診断の実施、長時間労働者への面接指導などを定めています。特に運送業では、睡眠時無呼吸症候群(SASなどのスクリーニングも含め、ドライバーの健康を管理する必要があります。

実務上の注意点

  1. 運行管理者の役割強化
    • 配車計画の立案時に、過密スケジュールになっていないかを必ずチェックする。
    • ドライバーの勤務時間や休憩取得状況をリアルタイムに把握するために、テレマティクスやデジタコの活用を検討する。
  2. 荷主との交渉
    • 荷待ちが長期化する場合は、待機時間の改善に向けた交渉を行う。
    • 契約書において、荷待ち時間の取り扱いを明確に定義する。
  3. 健康診断と面接指導
    • 長時間労働者や深夜勤務者に対しては、医師による面接指導を実施し、早めのケアを行う。
    • 定期健康診断では、SASチェックや血圧、心電図検査を強化する。
  4. 勤務間インターバル制度の導入
    • 労働者の終業から次の始業までに、一定の休息時間(例:11時間)を確保する制度。
    • ドライバーが十分な睡眠時間を確保できるように配慮し、疲労回復を図る。

    違反事例・裁判例

    • 過労運転による重大事故
      ドライバーが居眠り運転を起こし、衝突事故を招いた事例。会社側は運行管理を怠った安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われた。
    • 未払い残業代請求
      待機時間や荷待ち時間を適正に労働時間として扱っておらず、ドライバーから未払い残業代を請求されたケース。労働基準法違反として、多額の付加金も支払うことになった。

    弁護士に相談するメリット

    1. 法改正への迅速な対応

    働き方改革関連法など、労働時間に関する法改正は頻繁に行われています。弁護士へ相談することで、最新の法律やガイドラインを踏まえた就業規則や運行管理規程の整備が可能です。

    2. トラブル予防

    長時間労働や過労運転に関するトラブルは、発生してからでは遅いケースが多々あります。早期段階から弁護士に相談し、問題を予防・軽減する体制を整えておけば、重大な事故や労務紛争を回避できる可能性が高まります。

    3. 未払い残業代・損害賠償リスクへの対処

    ドライバーからの未払い残業代請求や、交通事故による損害賠償請求など、法的紛争に発展した際には、弁護士のサポートが有益です。裁判手続きや示談交渉をスムーズに進めるため、専門的な知見が役立ちます。

    4. 荷主や取引先との契約内容整備

    長時間労働の原因が荷主との取引条件にある場合は、契約書や約款の見直しを行い、適正な運賃設定や待機時間の扱いを明確化する必要があります。弁護士が契約書をチェックし、実務上のリスクを洗い出すことにより、トラブルを未然に防ぐことができます。

    まとめ

    長時間労働・過労運転の防止は、ドライバーの健康と安全だけでなく、事業継続性を維持するためにも重要なテーマです。近年の法改正や社会的関心の高まりを背景に、業界全体としても厳しい視線が注がれています。過労運転による事故が発生すれば、被害者やその家族だけでなく、会社の信頼や経営を根底から揺るがす大問題に発展しかねません。

    • 運行管理体制の整備
      • 過密スケジュールの見直し
      • テレマティクスやデジタコの積極的活用
    • ドライバーの健康管理
      • 定期健康診断や面接指導の充実
      • 勤務間インターバル制度や十分な休憩時間の確保
    • 法令遵守とリスクマネジメント
      • 労働基準法・道路交通法・安全衛生法の理解
      • 弁護士へ相談しながらの体制構築

    いずれの対策も、「ドライバーを大切にする」姿勢があってこそ実効性が高まります。実務上の課題に行き詰ったときは、お早めに弁護士にご相談ください。

     


     

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