コラム

2025/01/08 コラム

運送業における労働基準法のポイント|ドライバーの労働時間管理と残業規制

はじめに

運送業に携わる事業者の皆さまにとって、ドライバーの労働時間管理は非常に重要なテーマです。トラックドライバーの長時間労働や過重労働が社会的な問題となるなか、労働基準法に則った適切な管理が求められています。とくに近年は「働き方改革関連法」が施行され、残業時間の上限規制や36協定の適正運用など、これまで以上に厳格な労務管理が必要です。

一方で、運送業界には「荷待ち時間」や「休憩の取り方」など、オフィスワークとは異なる独自の実務上の課題も存在します。こうした課題に適切に対応するためには、労働基準法の基本的なルールをしっかりと理解したうえで、業界特有の実務に即したマネジメントが欠かせません。

本記事では、「運送業における労働基準法のポイント」をテーマに、ドライバーの労働時間管理や残業規制などを中心に解説します。あわせて、運送業の皆さまが実務で気を付けるべき点や、トラブルを未然に防ぐための対策もご紹介します。さらに、労務問題に関して弁護士に相談するメリットなども解説いたしますので、ぜひ参考にしてください。

Q&A

ここでは、運送業における労働基準法に関して、よくある疑問やご相談をQ&A形式でまとめました。

Q1.トラックドライバーの「荷待ち時間」は労働時間に含まれますか?

荷待ち時間でも、ドライバーが会社や荷主の指示に従わなければならない状態にある場合は、原則として「労働時間」に含まれます。労働基準法においては、使用者(会社)の指揮命令下にある時間は労働時間とみなされるためです。しかし、たとえば完全に自由な休憩時間として扱われ、外出や私用が許されているのであれば、労働時間ではなく休憩時間として認められる可能性があります。現場ごとの実態を踏まえ、就業規則や36協定の取り扱いなどを整理しておきましょう。

Q2.運送業に適用される残業時間の上限規制はどうなっていますか?

働き方改革関連法の施行により、残業時間の上限が「月45時間・年360時間」が原則となりました。特別条項付きの36協定を締結している場合でも、1年のうち6か月までなら月100時間未満(休日労働を含む)、年720時間以内などの制限が設けられています。一方、運送業については一部猶予や特例の対象となっている部分もあるため、最新のガイドラインや厚生労働省の通達を踏まえて確認することが必要です。

Q3.ドライバーの休憩時間はどのように確保すればいいですか?

労働基準法では、1日の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならないと定めています。運送業の場合、業務の性質上、連続した休憩時間を取得しにくいケースがありますが、分割して取得する場合でも合計で上記の時間を確保することが必要です。拘束時間内であれば、その管理方法を就業規則で明確化し、ドライバーに周知徹底しておくことが大切です。

Q4.運送業界で特に気を付けるべき労働時間の管理方法はありますか?

ポイントは以下のとおりです。

  • 始業・終業時刻の正確な把握
    タコグラフやデジタコ、GPSの運行管理システムなどを活用し、ドライバーが実際にいつ仕事を始め、いつ仕事を終えたのかを明確に記録してください。紙ベースの管理に頼らず、電子的な管理方法を取り入れるとミスや抜け漏れを防ぎやすくなります。
  • インターバル制度の活用
    一日の終業時刻から、翌日の始業時刻までに一定の休息時間(インターバル)を設ける制度です。運送業界においても、ドライバーの健康管理や労働災害を防止する観点から注目されています。
  • 雇用形態や業務形態の明確化
    正社員・パートタイマー・業務委託など、雇用形態ごとに適用される法律が異なります。特に業務委託契約の場合、実態が労働契約とみなされるケース(いわゆる偽装請負)には注意が必要です。

 解説

運送業ならではの労働時間管理上の課題

  1. 拘束時間の長さ
    運送業のドライバーは、配送先や荷待ち、交通状況、休憩場所の確保などさまざまな要因によって業務時間が左右されます。日常的に長時間労働が発生しやすいため、労働基準法や安全衛生法上の労働時間規制を超過しないよう注意が必要です。
  2. 待機時間の取り扱い
    荷主の都合で長時間待機が発生しがちですが、先述のとおり指示待ちの時間は労働時間に含まれる可能性が高いです。ドライバーがどの程度自由に行動できるか、業務命令に従わなければならない状況かなどを踏まえ、待機時間の管理方法を明確化しましょう。
  3. 複雑な賃金体系
    運送業では、時間給だけでなく「距離制」「歩合制」などの多様な賃金形態が存在します。これらの仕組みを採用している場合でも、最低賃金の確保や割増賃金の支払い義務など、労働基準法の基本ルールを遵守する必要があります。

残業の上限規制と36協定

  1. 残業の上限規制
    働き方改革関連法により、原則として月45時間・年360時間という残業の上限が適用されています。特別条項付き36協定を締結した場合でも、「年720時間以内」「26か月の平均が月80時間以内」などの条件を守らなければなりません。運送業は一部特例措置の対象ですが、将来的にはより厳格な規制がかかる見込みもあり、早期に労働時間の削減や運行管理体制の整備に取り組むことが重要です。
  2. 36協定の締結・届出
    運送業であっても残業や休日労働を行う場合は、労使協定(36協定)を締結して所轄の労働基準監督署長へ届出しなければなりません。協定書には、残業させる時間や休日労働の上限などを具体的に定める必要があります。不備があると労基署から是正勧告を受けたり、重大な場合には罰則を科されるリスクもあるため、慎重に作成・運用することが求められます。

具体的な事例

  • ドライバーの過労死認定事例
    運送業においては、長時間労働によりドライバーが健康を害し、過労死に至ったとして、会社の安全配慮義務違反が問われる事例があります。荷主からのきついスケジュールや、適切な休息を与えない運行管理などが問題となり、使用者(会社)が損害賠償責任を負うこともあります。
  • 待機時間に関するトラブル事例
    ドライバーが「待機時間は労働時間として認めるべき」として未払い残業代を請求した裁判例もあり、指揮命令下にあった時間と認定された場合には会社に支払い義務が生じます。運送業は待機時間が多く発生するため、就業規則や給与計算システムの設計時に明確にルール化しておくことがリスク回避につながります。

実務上の注意点

  1. 就業規則の整備
    運送業特有の勤務形態や休憩取得方法などを踏まえて、就業規則・賃金規程を整備しましょう。労働条件の明確化はトラブル防止の基本です。
  2. 勤怠管理システムの導入
    デジタコやGPSなどを活用した正確な勤怠管理は、労働時間の把握だけでなく、安全管理や法令遵守の観点でも重要です。
  3. ドライバーへの労働時間に関する教育
    労働基準法のルールや、残業時間の上限、休憩取得の重要性などを従業員全員に周知し、協力体制を整えましょう。
  4. 荷主との交渉・改善要望
    運送業の待機時間増大は荷主との取引条件にも起因します。必要に応じて適正な運賃や配送スケジュールの見直しを提案し、過度な負担がドライバーにかからないよう取り組むことも大切です。

弁護士に相談するメリット

運送業の労働基準法違反リスクは、従業員の健康問題や会社の信頼低下だけでなく、行政処分や損害賠償請求などの重大なリスクにつながります。こうしたリスクに対処するためには、次のような場面で弁護士への相談が有効です。

  1. 就業規則や賃金規程の見直し
    運送業特有の勤務形態を踏まえた就業規則や賃金体系を構築しなければ、未払い残業代や安全配慮義務違反などの法的リスクが高まります。弁護士に相談することで、法令に適合しながらも実態に合ったルールの整備が可能です。
  2. 労働時間管理体制の構築
    運送業の労働時間管理は非常に複雑です。労働基準法や関連する省令・ガイドラインを踏まえて、どのように管理すべきか、どう運用すればいいのか、弁護士から具体的なアドバイスを受けることで、法違反のリスク低減につながります。
  3. トラブル対応・紛争予防
    もしドライバーとの間で労働条件や残業代に関する紛争が起きた場合、早期に弁護士のサポートを得ることで、適切な交渉や法的手段の選択が可能となります。また、事前に弁護士からアドバイスを受けておけば、トラブルの芽を未然に摘むこともできます。
  4. 行政からの是正勧告・調査への対応
    労働基準監督署から調査や是正勧告を受けた場合の対応は、運送業界に精通した弁護士に相談することでスムーズに進められます。是正計画の策定や書類提出のサポートなど、実務的な助言を受けることで、会社としてのダメージを最小限に抑えることができます。
  5. 法改正や最新情報のアップデート
    働き方改革関連法など、労働分野の法改正は頻繁に行われるため、最新情報を把握しなければなりません。弁護士に相談することで、改正内容や新たなガイドラインへの対応策を早い段階で準備することが可能です。

まとめ

運送業の労務管理においては、労働基準法の基本的なルールはもちろんのこと、ドライバー特有の就労環境を踏まえたきめ細やかなマネジメントが重要です。残業時間の上限規制やインターバル制度の活用など、働き方改革関連法に対応した取り組みを早期に進めることで、労使双方が安心して業務に取り組める環境づくりを目指しましょう。

  • 労働時間管理のポイント
    • 待機時間や休憩時間を含めた正確な勤怠管理
    • 36協定の適正運用と残業時間の削減策
    • 健康診断の実施や安全教育による労働災害防止
  • 就業規則や賃金規程の整備
    • ドライバーの業務実態に合わせたルール策定
    • 未払い残業代や長時間労働のリスク軽減
  • 弁護士に相談するメリット
    • 法改正への迅速な対応
    • 効果的な労働時間管理体制の構築
    • トラブルの早期解決と予防策の確立

ドライバーの安全・健康を守りつつ、会社としての法令遵守の姿勢を示すことは、業界の信頼確保にもつながります。運送業ならではの実務上の悩みを抱えている場合は、ぜひお早めに法律事務所へご相談ください。

 


 

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