コラム

2024/12/24 コラム

有期契約社員の雇用管理と「雇止め」への対応ポイント

はじめに

近年、多くの企業が人材活用の一環として有期契約社員(期間を定めて雇用する契約社員)を採用するケースが増えています。正社員と比べて柔軟に雇用できるメリットがある一方で、「雇止め(=契約期間満了による契約終了)」に関するトラブルが後を絶ちません。とくに、契約期間を繰り返し更新してきた社員に対して、更新を断る際には法律上の注意点が多く存在します。本稿では、有期契約社員の基本や「雇止め」の問題点・裁判例のポイントなどを分かりやすく解説します。企業の経営者や人事担当の方とって参考となれば幸いです。

1. 有期契約社員の基本

有期契約社員とは

有期契約社員とは、その名のとおり雇用期間を定めた労働契約に基づいて働く社員のことをいいます。契約書には「契約期間〇年」や「契約期間か月」などの定めがあり、その期限が到来すれば原則として労働契約は終了します。これを「自然終了」などと呼ぶこともあります。

有期契約社員を活用するメリットとリスク

  • メリット
    1. 短期間・限定的なプロジェクトへの労働力補充
    2. 経営状況の変化に応じた柔軟な人員調整
    3. 正社員採用に比べたコスト抑制
  • リスク
    1. 能力のある人材が定着しづらい
    2. 契約更新にまつわる労使トラブルが起こりやすい
    3. 無期転換ルール(労働契約法18条)などの法律対応が必要

企業としてはこれらのメリット・リスクを考慮しながら、有期契約社員を適切に配置することが求められます。

2. 「雇止め」とは

雇止めの基本的な考え方

「雇止め」とは、有期労働契約の期間が満了した段階で契約を更新せず、労働関係を終了させることをいいます。本来、有期契約は期限がきた時点で自然に終了するのが大原則です。しかし、実際には同じ業務内容で何度も契約を更新して長期就労となるケースが多く、企業側がある時点で契約更新をせずに契約を打ち切った場合、労働者から「なぜ今になって更新しないのか」「これまで更新してきたのに突然はおかしい」としてトラブルになることがあります。

労働契約法19条と「雇止め」の規制

労働契約法19条では、一定の要件を満たした場合、「雇止めを無効」として無期契約社員や解雇に準じた扱いにするルールが定められています。これは、最高裁判所が確立した「解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)の類推適用」を立法化したもので、企業が雇止めを乱用することを防ぐ趣旨があります。要件としては、たとえば「契約更新が繰り返し行われてきた結果、雇用継続への合理的な期待が生じている」場合などが挙げられます。

3. 雇止めの問題点と類型

雇止めにおける典型的な問題点

  1. 突然の雇止め
    何度も契約更新をしていながら、次回の更新時に予告なく「今回で契約終了です」と通告するケース。労働者は「継続して働くものと期待していた」と感じ、トラブルに発展しやすいです。
  2. 不十分な説明や手続き
    雇止めの理由を企業側が説明しなかったり、手続き上の問題(書面での告知がない、解雇予告手当が不要と誤解している等)があったりすると、労働者の不満を増大させる要因となります。
  3. 更新拒否のタイミングが遅い
    契約期間満了直前になって「契約更新をしない」と伝えると、労働者の就業継続予定に大きな影響を与えます。早期に意向を伝えなかったことが不当と判断される可能性があります。

雇止めの類型

裁判例では、雇止めをいくつかの類型に分類しています。

  1. 純粋有期契約
    完全に最初から「期間限定」と認識され、回数も少なく、その都度契約を終了してきたパターン。企業側は「期限が来たので終了」という正当性を主張しやすいですが、やはり手続きの適正や労働者への丁寧な説明が望まれます。
  2. 実質的に無期契約と同一類型
    契約書上は有期となっているが、実質的に定めのない長期継続雇用と同様に扱われている場合です。更新回数が極端に多い場合などが典型例で、企業側が「期間満了だから終了」というだけでは認められず、実質的には解雇とみなされるリスクがあります。
  3. 合理的期待型
    契約更新を繰り返す中で、労働者側が「今後も継続して働ける」と期待するに足る事情がある場合、企業側には正当な理由なく一方的に契約更新を拒否しないようにする義務が生じます。このタイプは「解雇権濫用法理の類推適用」が問題となりやすいです。

4. 雇止めに関する裁判例のポイント

裁判例にみる雇止めの有効・無効

実際の裁判例では、雇用管理が不透明だったり、労働者に更新への合理的な期待を与えていたのに企業側が一方的に雇止めをしたりすると、雇止めが無効とされることがあります。一方で、明確に「今回で契約満了となります」と事前に周知したうえで、実質的にも更新を前提としなかったケースなどでは、雇止めが有効と認められています。

具体的事例(貨物自動車運送業のケースなど)

  • 複数回更新してきたトラック運転手に対する雇止め
    契約更新を年に数回行い、長期にわたって就労した後、企業側が突然「更新をしない」と通告して問題となった事例があります。裁判所は「労働者側が継続的に雇用されると期待していたのは不合理ではない」として、企業側に雇用継続を命じました。
  • 短い期間更新を繰り返したが明確に終了通知していた例
    一方で、契約更新のたびに「次回の更新は保証できない」と書面で周知し続けていたなど、客観的に見て更新が当然のものではなかった場合、雇止めが有効とされたケースも存在します。

5. 雇用継続に対する期待保護の考え方

「期待保護」とは何か

契約更新の回数が重なり、企業側の言動からも「今後も働いてほしい」という姿勢がうかがわれるような状況では、労働者としては契約の継続が当たり前だと思うのが普通です。法律上、「労働者が雇用継続を期待することが合理的」と判断されると、企業側が安易に更新を拒否できなくなります。これが「期待保護」の考え方です。

無期転換ルールとの関係

また、労働契約法18条には有期契約を通算5年超で更新し続けた場合、労働者が申し込めば無期契約に転換できるというルールがあります。無期転換が近づくと、企業側が「無期転換を避けるために雇止めをするのでは」と疑われることもあるため、特に注意が必要です。

弁護士に相談するメリット

早期段階でのリスク予測と回避

弁護士に相談することで、企業側は「いつ」「どのように」契約更新や雇止めを行うべきかといった法的リスクをあらかじめ把握できます。書面の作成や労働者への説明方法など、具体的な対策も得られるため、後の紛争リスクを最小限に抑えられます。

労働者側との交渉のスムーズ化

トラブルが発生してから弁護士が入ると、客観的な第三者の視点で問題点を整理し、労働者側との協議を円滑に進めることが可能です。「誠実に対応している」という姿勢を示すことで、裁判などに発展する前に円満解決するケースも増えます。

企業内就業規則・契約書の整備

就業規則の条文や契約書の内容が曖昧だと、雇止め時にトラブルが深刻化するリスクが高まります。弁護士は、企業の実情に合わせた就業規則や契約書の整備をサポートし、問題発生を未然に防ぐ体制づくりに貢献します。

まとめ

有期契約社員の雇用管理は、単純に「契約期間が満了したら終了」と言えるケースばかりではありません。特に、更新を繰り返して実質的に長期雇用と変わらないような状況では、「雇止めは無効」とされる可能性が生じます。トラブルが起きると企業も労働者も大きな負担を負うため、以下のポイントを意識することが大切です。

  1. 契約更新時に将来の見通しを明確に伝える
  2. 雇止めの手続き・理由は早期に適切に説明する
  3. 就業規則や契約書でルールを整備し、予測可能性を高める
  4. 無期転換ルールを正確に理解し、不必要なトラブルを回避する

上記をしっかりと押さえておくことで、多くのリスクを未然に防ぐことが可能です。また、雇止めに関する紛争が生じた場合には、早期の段階で弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

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